【需給調整市場】市場の全体像と参加の流れ:基礎から2026年度の制度変更まで

電力系統の周波数維持や需給バランス調整は、一般送配電事業者(TSO)の仕事です。そのTSOが調整力を調達するために設けられたのが、需給調整市場です。

2021年4月に開設された需給調整市場は、現在も制度の整備が続いており、2026年度からは前日取引化・広域調達など大きな変更が予定されています。この記事では、市場の全体像と参加の基本的な流れを解説します。

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この記事のポイントです。
・需給調整市場はTSOがΔkW(調整力)のみを調達する市場
・5つの商品(一次〜三次調整力①②)があり、応答速度・継続時間・制御方式で区分
・売り手は発電事業者・アグリゲーター。買い手はTSO
・2026年度から前日取引化・広域調達が本格開始

目次

需給調整市場とは何か

需給調整市場とは、一般送配電事業者(TSO)が電力系統の周波数維持・需給バランス調整に必要な調整力(ΔkW)を調達するための市場です。

「調整力」とは、TSOの指令に応じて出力を増減できる発電機の能力のことで、電力そのもの(kWh)とは区別されます。需給調整市場ではこの調整力のみが取引されており、スポット市場のように電力量を売買する市場ではありません。

取引される対価は「ΔkW料金」で、調整力(ΔkW)に対して支払われます。実際に指令を受けて発電した電力量については別途精算されます。

需給調整市場で取引される商品

需給調整市場には5つの商品があり、応答速度・継続時間・制御方式によって区分されています。

出典:需給調整市場の商品要件と取引スケジュール

誰が参加するのか

売り手:発電事業者・アグリゲーター

需給調整市場に売り手として参加できるのは、TSOの系統に接続された発電事業者またはアグリゲーター(需要家・分散型電源等を束ねて調整力として提供する事業者)です。

ただし、参加には商品ごとに定められた応動能力の確認試験をクリアする必要があります。一次調整力や二次調整力①のように応答速度が速い商品ほど、参加できる電源の種類は絞られます。

買い手:一般送配電事業者(TSO)

買い手は全国10エリアの一般送配電事業者(TSO)に限られます。TSOは自エリアの系統運用に必要な調整力を市場から調達し、提供期間中に必要に応じて指令を出します。

調整力公募から需給調整市場へ

需給調整市場の前身は「調整力公募」です。調整力公募では、一般送配電事業者が年に一度まとめて翌年度分の調整力を公募し、落札した電源(電源Ⅰおよび電源Ⅱ)が1年間その役割を担っていました。

調整力公募では、調整力(ΔkW)だけでなく供給力(kW)もセットで調達できていましたが、需給調整市場では、この「kWとΔkWの一体調達」をやめ、ΔkWのみを調達する設計に変わりました。

市場の運営スケジュール

取引断面

需給調整市場では、商品ごとに取引断面(いつ入札・約定するか)が決まっていますが、2026年度から取引のタイミングが大きく変わります

2025年度まで:一次〜三次調整力①は「週間断面」、三次調整力②は「前日断面」で取引されています。週間断面とは、実需給の1週間程度前に入札・約定が完了する断面のことです。

2026年度から:一次〜三次調整力①・複合商品が「前日断面」に移行します。週間断面から前日断面への移行により、より実需給に近いタイミングで調整力を調達できるようになります。

提供期間

応札は「提供期間」を単位として行います。提供期間とは、調整力を供出する時間帯のまとまりのことです。

売り手は提供期間を指定して入札し、約定した提供期間について供出義務が生じます。提供期間ごとに供出可能量や価格を設定できるため、電源の稼働スケジュールに合わせた入札が可能です。

アセスメント

売り手には、約定した提供期間中の義務の履行について、2種類のアセスメント(履行確認)が課されます。

アセスメントⅠ(供出可能量確認):30分コマごとに、供出可能量がΔkW約定量を下回っていないかを確認します。電源の停止・出力制約などにより供出できない状態になっていた場合は不適合と判定されます。

出典:取引ガイド(全商品) P470単独発電機の例

アセスメントⅡ(応動実績確認):TSOから指令が発動された際に、指令値への追従が適切だったかを確認します。評価方法・許容範囲は商品ごとに定められており、30分コマ単位で判定されます。

出典:取引ガイド(全商品) P479単独発電機の例

ペナルティ

アセスメントの結果、不適合と判定された場合はペナルティが課されます。ペナルティ料金は、不適合の種別や程度に応じた算定式が定められており、商品ごとに異なります。

繰り返し不適合が発生した場合は、是正勧告→取引停止→除名処分へとエスカレーションします。参加にあたっては、義務履行の管理体制を整えておくことが重要です。

出典:取引ガイド(全商品) P630

精算

需給調整市場に関する「約定料金」「ペナルティ料金」に加え、実際に指令を受けて調整した上げ・下げ調整電力量料金が精算されます。

需給調整市場の精算は月毎の精算となります。

広域調達

2026年度から、二次①を除く商品(一次・二次②・三次①②・複合)で広域調達が開始されます。二次①については2027年度中の実施を目指して検討が進んでいます。

広域調達では、複数エリアのTSOが合算需要に対して共同で入札を受け付けます。調整力をより安く・広域的に確保できる可能性がある一方、系統をまたいだ指令の運用など、実務面での課題もあります。

出典:需給調整市場検討小委員会における議論の方向性と整理
(2025年度上期実績および2025年度下期の予定)

需給調整市場の現状と今後

需給調整市場は2021年度に開設されましたが、開設当初から課題が山積していました。経済産業省・電力広域的運営推進機関の検討資料では、現状の問題点として以下の4点が整理されています。

課題①:スポット市場での売り切れ・価格高騰
電力のひっ迫時には、スポット市場で売り切れが発生し、価格が高騰(250円/kWhを超える場面も)することがあります。kWh市場とΔkW市場が分離されていることで、資源の取り合いが生じやすい構造的な問題があります。

課題②:需給調整市場での調達未達・価格高騰
需給調整市場でも調達量が確保できない場面が発生しました。特に三次調整力①②について、必要量に対して応札が集まらないケースがあり、価格高騰も見られました。

課題③:入札方式の限界
現在の市場設計では「ブロック入札」が基本で、火力発電の起動費や最低出力費用を適切に反映した入札が難しい面があります。起動・停止を伴う取引では、発電機の真のコスト構造を反映した入札ができないという問題です。

課題④:系統運用上の課題
再生可能エネルギーの増加に伴い、出力制御・混雑管理など系統運用上の複雑性が増しています。調整力の調達・運用をより柔軟に行える仕組みが求められています。

これらの課題を解決する手段として検討されているのが「同時市場」です。同時市場では、スポット市場(kWh)と需給調整市場(ΔkW)を同時に約定し、発電機ごとのスリーパート(Three-Part Offer:起動費・最低出力費用・増分費用カーブ)を個別登録することで、各電源の真のコスト構造を反映したメリットオーダーの実現が可能になります。

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同時市場は、kWとΔkWを一体調達していた調整力公募に似た側面もあります。一度解体した「一体調達の思想」を、より精緻な形で再構築しようとしているとも言えるかもしれません。

出典:第77回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会
資料3 「同時市場の在り方等に関する検討会」の中間報告について

まとめ

需給調整市場は、TSOが調整力(ΔkW)を調達するための市場として2021年4月に開設されました。5つの商品があり、発電事業者・アグリゲーターが売り手として参加できます。

2026年度からは前日取引化・広域調達が本格化し、市場の実態は大きく変わります。また、スポット市場・需給調整市場双方の課題を解決するための「同時市場」の検討も進んでいます。

制度は複雑ですが、ここで解説した基本構造を理解しておくと、日々の制度改革の議論もずいぶん追いやすくなるはずです。

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需給調整市場は現在も制度の進化の途中にあります。2026年度の制度変更、そして同時市場に向けた動向を継続してウォッチしていきましょう。

※本記事の情報は作成時点のものです。制度は今後変更される可能性があります。最新の情報は電力広域的運営推進機関(OCCTO)または経済産業省の公表資料をご確認ください。

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