広域機関は、発電事業者等と供給力提供の具体的な方法を取り決めます。これを「リクワイアメント」といいます。
リクワイアメントの達成状況は、事後に評価(アセスメント)され、評価結果によっては、ペナルティが課せられることがあることから、容量市場に参入した発電事業者等にとって、リクワイアメント・アセスメント・ペナルティを正しく理解しておくことが重要です。
ここでは、容量市場のリクワイアメントのうち、計画停止・市場応札について、わかりやすく解説します。
リクワイアメント・アセスメント・ペナルティの全体像
広域機関は、発電事業者等とオークションで落札された応札単位毎の電源等と容量確保契約書を締結します。
容量確保契約では、実需給期間における供給力提供の具体的な方法(リクワイアメント)を取り決めます。
リクワイアメントは、電源区分、実需給期間の開始前後や需給状況によって異なり、リクワイアメント毎にアセスメント(リクワイアメント達成状況の確認)やリクワイアメント未達成時のペナルティが存在します。
広域機関は、リクワイアメントの達成状況をアセスメント(評価)し、達成状況に応じて容量提供事業者に容量確保契約金額を交付します。リクワイアメント未達成の場合は、経済的ペナルティとして、容量提供事業者へ交付する容量確保契約金額の減額や請求を行います。
リクワイアメントの一覧は、以下の表のとおりです。
また、オークション参加対象となる電源等の概要は以下の表のとおりです。変動電源は、自身での出力調整ができない自然変動電源のことで、単独で応札するものと組み合わせて(アグリゲート)応札するもので区分しています。
以降では、リクワイアメントのひとつひとつについて、詳しく見ていきましょう。
③⑧⑨計画停止(安定電源・変動電源(単独・アグリゲート))
「③⑧⑨計画停止」のリクワイアメントは、「維持・運営等のために必要な一定の期間を超えて、電源の停止および出力低下しないこと」とされています。
具体的には、容量提供事業者は、月間、週間単位で容量停止計画を広域機関に提出し、広域機関は、容量停止計画が提出されているコマ単位(30分単位)で、電源が提供できる供給力の最大値が応札したアセスメント対象容量を下回ったリクワイアメント未達成コマをカウントしていきます。
リクワイアメント未達成コマの状況により、経済的なペナルティが課せられます。
対象となる電源は、安定電源、変動電源(単独・アグリゲート)です。
リクワイアメントには、「①⑦計画停止調整」と「③⑧⑨計画停止」という、似た項目が存在していますが、これらは実施する時間軸が大きく異なり、「①⑦計画停止調整」は、実需給年度の2年前の作業、「③⑧⑨計画停止」は、実需給年度の直前~実需給の作業となります。
容量停止計画の対象作業
実需給期間における容量停止計画の対象は、容量市場業務マニュアルに以下の記載があります。
実需給期間における容量停止計画の対象は、「電源等の維持・運営に必要な作業」、および、「その他要因(発電設備自体の作業停止以外の流通設備の計画的な作業実施や地元自治体との協定等)」による電源等の停止または出力低下となります。
出典:電力広域的運営推進機関 容量市場業務マニュアル 実需給期間中リクワイアメント対応(安定電源)編
なお、 実需給年度 2 年前に行った容量停止計画の調整業務の際に提出いただいた容量停止計画は、各エリア・各月の供給信頼度の確保を目的としておりましたが、実需給期間においては供給力の維持に係るリクワイアメントを満たしているかを確認する目的で、容量停止計画を提出いただきます。したがって、事故による供給力の低下、日数が短く休日等の軽負荷時に実施される作業等を含む電源等の停止・出力低下についても、容量停止計画を提出してください。
(対象実需給年度:2024 年度) P9
実需給年度2年前の容量停止計画に対し、トラブルや事故による出力低下、休日等に行われる日数が短い作業など、電源の停止や出力低下が発生する作業を新たに反映する必要があります。
容量停止計画のアセスメント(日数カウント)
広域機関は、容量停止計画が提出されているコマ単位でアセスメント(評価)を実施します。
電源が提供できる供給力の最大値がアセスメント対象容量(応札容量)を下回ったコマをリクワイアメント未達成コマとします。(容量停止計画が提出されていないコマについては、アセスメント対象外です)
アセスメント対象容量に対して、供給力が 0%であれば「1コマ」とカウントし、50%の供給力は提供できていた場合は「0.5コマ」と、未達成割合に応じてリクワイアメント未達成コマをカウントしていきます。
容量停止計画の提出タイミングとペナルティ倍率
容量停止計画の提出タイミングや広域予備率低下の有無により、リクワイアメント未達成コマに対してペナルティの倍率が設定されています。
例えば、月間段階の前月末で容量停止計画を提出しておけば、リクワイアメント未達成コマはそのままカウントされますが、前週火曜日の17時以降に提出した場合は、リクワイアメント未達成コマが5倍にカウントされてしまいます。
また、前日夕方以降に「広域予備率低下(8%未満)」と判定された場合は、当月に提出した容量停止計画についても5倍カウントのペナルティ対象となります。
容量停止計画の経済的ペナルティ
リクワイアメント未達成コマの累積が、年間で8,640コマを超過した場合、経済的ペナルティが科されます。
経済的ペナルティ(円) =容量確保契約金額(円) ×(リクワイアメント未達成コマの累積-8,640)(コマ) ×0.0125(%/コマ)
例として、4月1日から連続して供給力が「0」の場合に、ペナルティ倍率は1として、経済的ペナルティがどのように推移するか示します。
180日までは、ペナルティなしですが、それ以降は徐々にペナルティが増加し、347日では容量確保計画金額と同額のペナルティとなります。
その後もペナルティは増加し、365日全て停止していた場合には、容量確保契約金額の11%をペナルティとして支払うことになります。
180日まで発電機を停止して良いことから、容量停止計画を事前に提出することができていれば、経済的ペナルティを受ける可能性は低いのではないでしょうか。
比較的軽いペナルティが設定されている印象です。
④市場応札(安定電源)
「④市場応札」のリクワイアメントは、「発電余力を卸電力取引市場等に応札すること」とされています。
容量提供事業者は、アセスメント対象容量の範囲内で、小売電気事業者等が活用しない余力の全量を卸電力取引所または需給調整市場に応札する必要があります。
小売電気事業等が活用しない余力
小売電気事業等が活用しない余力というのは、アセスメント対象容量と発電計画の差分になります。
燃料制約等は、容量停止計画の対象外となりますので、提供できる供給力の最大値がアセスメント対象容量以下になることがあります。その場合は、提供できる供給力の最大値と発電計画の差分が余力となります。
市場応札のリクワイアメント対象
市場応札のリクワイアメントは、容量停止計画を提出していないコマが対象になります。
また、電源等情報に登録した『相対契約上の計画変更締切時間』以降において、卸電力市場等が閉場しており余力を応札する市場が存在しない場合も、リクワイアメント対象外となります。
例えば、相対契約等を契約している電源において、契約者が発電計画を変更できる権限をもっており、その変更がゲートクローズ(実需給1時間前)まで可能となっていれば、ゲートクローズ以降は時間前取引にも応札できないことから、この条件に当てはまることになると思われます。
市場応札のアセスメント
容量提供事業者は、小売電気事業等が活用しない余力を卸電力取引市場等に応札する必要があります。広域機関は、コマ単位(30分単位)で、この応札状況についてアセスメントを実施します。
アセスメント対象容量の範囲内で、「小売電気事業者等が活用しない余力」から「卸電力市場等に入札した容量」を差し引いた値をリクワイアメント未達成量とします。
市場応札のリクワイアメントについては、卸電力市場等に応札することであり、約定することを必須とするものではありません。
リクワイアメント未達成量 =「小売電気事業者等が活用しない余力」-「卸電力市場等に入札した容量」
なお、市場応札の結果は、実需給翌月の上旬に、容量提供事業者が自ら広域機関の容量市場システムに登録します。
市場応札の経済的ペナルティ
市場応札の経済的ペナルティは、需給ひっ迫(広域予備率が8%未満)となったコマにおけるリクワイアメント未達成にのみ課せられ、それ以外の市場応札については対象外となります。
需給ひっ迫時の経済的ペナルティは、「リクワイアメント未達成量(kWh)」を「容量確保契約容量(kWh)×30時間」で除した割合で減少します。以下はその算出式です。
例えば、需給ひっ迫時に、容量停止計画が未提出で市場応札を行っていない場合、電源停止が 30時間に達すると、容量確保契約金額は「0」となります。
容量停止計画のペナルティと比較すると、需給ひっ迫時の市場応札ペナルティは、かなり重いものになっています。
これは、容量市場の目的が供給力の確保であることを考えると妥当だと思えます。
ペナルティを回避するには、普段から広域予備率を意識しておくことが大切です。
市場応札のペナルティ対象となる広域予備率について
広域予備率は、週間計画~当日断面にかけて、更新されます。
週間計画、翌々日計画断面では、広域予備率 8%未満となるコマの公表が行われますが、この時点では、市場応札の低予備率アセスメント対象コマとはなりません。
市場応札の低予備率アセスメント対象コマとなるのは、前日17時35分頃の翌日計画公表時の広域予備率となります。
翌日計画公表以降は、何度も広域予備率が更新されるため、8%未満コマとなった後に、8%以上に回復することもありますが、翌日計画公表以降に広域予備率が一度でも8%未満となったコマは、低予備率アセスメント対象コマと判定されます。
広域予備率8%未満を判定の都度、広域予備率web公表システムに表示されるとともに、容量提供事業者に確認支援のメールが送付されます。
重要な情報になりますので、メーリングリスト等を利用して、関係個所に情報共有されるよう準備しておいた方がよいでしょう。
広域予備率8%未満となるような状況は、震災等の災害が引き金になることもありますが、猛暑や厳寒といった厳気象による高需要により引き起こされることが多く、夏季や冬季は特に気象情報に留意しておくことが重要です。
⑤供給指示への対応
「⑤供給指示への対応」のリクワイアメントは、「一般送配電事業者からの電気の供給指示があった場合、適切に対応すること」とされています。
容量提供事業者は、広域予備率が低下したと判定された場合、アセスメント対象容量の範囲内で、一般送配電事業者からの電気の供給指示に基づきゲートクローズ以降解除されるまでの余力を供給力として提供する必要があります。
給電申合書の締結
安定電源提供者は、一般送配電事業者からの依頼に応じて、供給力を提供するために必要となる事項を定めた給電申合書等を締結する必要があります。
広域予備率が8%未満になると判定された場合、一般送配電事業者は、追加供給力対策として、「安定電源への電気の供給指示」を実施します。(下表参照)
この供給指示を行うために必要な事項(例えば連絡方法等)を定めたものが「給電申合書」です。
供給指示のリクワイアメント
一般送配電事業者からの電気の供給指示のリクワイアメントは、給電申合書等を締結した電源のうち、容量停止計画(出力抑制に伴う停止計画は除く)を提出していない範囲のコマ(30分単位)が対象になります。
なお、一般送配電事業者から、給電申合書等の締結依頼がない電源については、リクワイアメント対象外となります。
供給指示のアセスメント
供給指示におけるアセスメントは、一般送配電事業者からの電気の供給指示に対して、事業者が適切な対応をしているかが基準となります。
適切な対応とは、具体的には以下のいずれかに該当する場合をいいます。
- 一般送配電事業者が出力を直接制御できる場合
- アセスメント対象容量以上の電気の供給実績がある場合
- その他、電気の供給ができないやむを得ない理由があり、本機関が合理的と認めた場合
容量提供事業者が適切な対応をしていないと判断された場合、アセスメント対象容量を上限として、ゲートクローズ以降解除されるまでの余力の全量がリクワイメント未達成量となります。
供給指示のペナルティ
需給ひっ迫時のリクワイアメントであることから、需給ひっ迫時における「市場応札の経済的ペナルティ」と同じ内容になっています。
まとめ
「計画停止」のリクワイアメントは、「維持・運営等のために必要な一定の期間を超えて、電源の停止および出力低下しないこと」とされています。
容量停止計画が提出されているコマ単位(30分単位)で、実際の出力が応札した対象容量を下回ったリクワイアメント未達成コマをカウントし、リクワイアメント未達成コマの状況により、経済的なペナルティが課せられます。
容量停止計画の提出タイミングや広域予備率低下の有無により、リクワイアメント未達成コマに対してペナルティの倍率が設定されており、リクワイアメント未達成コマの累積が、年間で8,640コマを超過した場合、経済的ペナルティが科されます。
「市場応札」のリクワイアメントは、「発電余力を卸電力取引市場等に応札すること」とされています。
容量提供事業者は、アセスメント対象容量の範囲内で、小売電気事業者等が活用しない余力の全量を卸電力取引所または需給調整市場に応札する必要があり、広域機関は、コマ単位(30分単位)で、この応札状況についてアセスメントを実施します。
市場応札の経済的ペナルティは、広域予備率が8%未満となったコマのリクワイアメント未達成にのみ課せられ、それ以外の市場応札については対象外となります。
市場応札の低予備率アセスメント対象コマとなるのは、前日17時35分頃の翌日計画公表時の広域予備率となります。
広域予備率8%未満時の市場応札ペナルティは、容量停止計画のペナルティより重く、ペナルティを回避するためには普段から気象情報を確認するなど、広域予備率低下に備えて準備しておくことが重要です。
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