小売電気事業者の「量的(kWh)な供給力確保義務」と「中長期取引市場」新設 ── 制度設計WG【2026年2月】

2016年の小売全面自由化から約10年。その検証を踏まえた制度改革の検討テーマの一つとして、小売電気事業者に量的(kWh)な供給力確保を義務付ける制度の議論が進んでいます。「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG」が2025年6月から9回にわたって開催され、2026年2月4日の第9回会合では、制度の核心となる論点が集中的に議論されました。

制度のポイントは、小売電気事業者が実需給の最大3年前から、顧客への供給に必要な電力量(kWh)を段階的に確保しておくことを求める点にあります。スポット市場(JEPX)への依存が高まる現在の調達スタイルから、中長期の量的(kWh)な供給力確保へと転換を促す内容です。制度の方向性に同意する意見がある一方で、ビジネスモデルへの影響や他制度との整合性を懸念する意見も多く、活発な議論が続いてきました。その全容を整理します。

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この記事のポイントです。
量的(kWh)な供給力確保義務は、電力システム改革検証を踏まえた制度設計の検討テーマの一つ
・2020〜2022年の市場混乱(スポット高騰・新電力83社の退出・需要家の混乱)が制度設計の出発点
・METIは「需要家への安定供給」と「電力料金の変動抑制」という2つの目的を掲げ、義務化を推進
・第9回WG(2026年2月4日)では、履行措置のA案・B案を中心に5つの論点が議論された

目次

なぜ今、この議論が始まったのか

2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画と、同年3月の「電力システム改革の検証結果と今後の方向性」は、これからの電力システムが目指すべき方向性として3つの課題を整理しました。①安定的な電力供給の実現、②電力システムの脱炭素化の推進、③需要家に安定的な価格水準で電力を供給できる環境の整備です。

この方針を受け、「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」(小委)において制度設計の検討事項が整理されました。本記事が扱う量的(kWh)な供給力確保の在り方(検討事項⑤)と中長期取引の活性化に向けた市場整備(検討事項⑥)は、その主要なテーマの一つです。

こうした経緯を踏まえ、経済産業省は2025年6月に「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG」を設置。WGは2025年6月の第1回から2026年2月の第9回まで、約8ヶ月かけて議論が重ねられました。

開催日主な検討内容
第1回2025年6月25日WG設置・検討事項の全体整理
第2回2025年7月4日量的(kWh)確保の概念整理・N-3年度・確保量の基本設計
第3回2025年7月22日同時市場等の短期市場整備
第4回2025年8月8日小規模事業者への配慮(販売電力量5億kWh基準)
第5回2025年10月15日同時市場のロードマップ等
第6回2025年11月11日制度目的の2本柱の整理・2022年混乱の詳細分析
第7回2025年11月28日退出事業者の調達傾向分析・代替案との比較検討
第8回2025年12月10日中間とりまとめ案の提示
第9回2026年2月4日履行措置A案・B案を中心に5論点を議論

METIはなぜ「義務化」が必要と主張したのか

2020〜2022年の市場混乱:何が起きたのか

METIが義務化を主張する根拠の出発点は、2020年から2022年にかけて起きた市場の混乱です。この混乱は大きく2つのフェーズに分かれます。

第1フェーズ:2020年度の需給ひっ迫によるスポット価格の急騰
2020年度末(冬季)の需給ひっ迫により、JEPXスポット市場価格は最高251円/kWhに急騰しました(年間平均は11.2円/kWh)。スポット市場に依存していた小売電気事業者の多くが、高騰したコストを吸収できず経営が圧迫されました。

第2フェーズ:2022年のウクライナ侵略に伴う国際燃料価格の高騰
ロシアのウクライナ侵略(2022年2月)以降、LNGのアジア価格(JKM)は2019年頃と比較して2022年には平均で約6倍の歴史的高値水準に達しました。日本はLNGと石炭火力の比率が高く、電気料金はその燃料価格に大きな影響を受けます。2022年には電気料金が高騰し、大手電力各社の規制料金は燃調上限に到達。自由料金は2022年12月頃に約40円/kWhまで上昇しました。

この2段階の混乱が重なり合った結果、以下の深刻な事態が生じました。

新電力83社が廃業・休止・解散(2022年1月以降、2023年12月末時点)
最終保障供給を受ける需要家が急増し、2022年11月にピーク(45,871件)を記録。大手電力が標準メニューでの受付を再開(2023年4月供給開始)して初めて減少に転じた
中途解約の多発:フォローアップ調査(2022年9月)では、回答344社のうち60社(17%)が中途解約を通知。低圧分野では1社で10万件以上の中途解約を実施した事例も
無契約状態の発生:中途解約を通知した60社のうち約30%において、無契約状態となった需要家が発生
託送料金・インバランス料金の未払い:一般送配電事業者10社合計で約450億円(2020年4月〜2022年4月)

国際燃料価格の急騰に伴う電気料金の急激な変動は国民経済に影響を与え、「料金の大幅な変動は社会的に許容し難い状況」であることが明らかになりました。

構造的リスク:問題は解消されていない

2022年以降のスポット価格は落ち着き(2023年度平均10.74円/kWh)、市場は正常化しつつあります。しかし、リスクの根本原因は変わっていません。

小売電気事業者がスポット市場や時間前市場で電気を調達する割合は、総需要の3割程度の水準にあります。スポット市場の取引量拡大は電力システム改革の成果の一つですが、燃料費の変動や電力需給の影響を受けやすい構造は変わっていません。地政学リスクや災害リスクが顕在化すれば、「2022年のような社会的混乱が生じる可能性は否定できない」とMETIは整理しています。

さらに、エネルギー基本計画等における課題整理(第2回WG資料4)では、市場に任せるだけでは改善しない理由として以下の4点が示されています。

①市場環境の厳しい局面では、小売電気事業者の退出等が相次ぎ、需要家が意図しない契約解除、特別高圧・高圧分野の最終保障供給への移行等が生じ、需要家に一定の負担や混乱が生じた
②国際燃料価格の急騰等に伴う電気料金の急激な変動が国民経済に影響を与え、料金の大幅な変動は社会的に許容し難い状況にあることが明らか
③現在のスポット市場の下では価格変動幅が大きく、卸収入の予見可能性が低いことから、新規電源投資の意思決定が困難
④小売電気事業者との間で長期相対契約が締結されない場合には、燃料を長期的に確保するインセンティブが低下し、安定的な燃料調達に悪影響を及ぼす懸念も

義務化の目的:2本柱で整理された政策の狙い

意見募集で「施策の目的をもっと明確にすべき」との声が相次いだことを受け、事務局は義務化の政策目的を明確に2本柱で整理しました。

目的①:需要家に対する安定・継続した電力量(kWh)の供給
小売事業者が量的な供給力をあらかじめ確保することで、再び市場価格が高騰した局面においても事業を継続でき、需要家への電力供給を安定して続けられる環境をつくる。

目的②:電力料金の急激な変動の抑制
スポット市場以外からの調達が増えることで、スポット価格の高騰が電気料金に直結しにくくなり、需要家が支払う料金の過度な高騰を防ぐ。

この政策目的については、第8回WGとりまとめでも「概ね異論がなかった」と記録されています。また、「電力価格の高騰やそれに伴う小売事業者の撤退等が社会に与える影響の大きさを踏まえると、国民生活や経済活動の基盤として特別な公共性を持つ電力という商品を扱う小売事業者は、一定の社会的責任や役割を果たすべき」との意見もあったとされています。

kW確保だけでは解決できない

小売電気事業者には現行でも供給力確保義務が課されており、容量市場において容量拠出金を支払うこと(kWを確保すること)で義務を履行しています。しかし、2022年の混乱を踏まえると、需要家に対して安定・継続して電力量(kWh)を供給するためには、これに加えてスポット市場に過度に依存しない形でkWhを一定程度確保することが必要だとMETIは整理しています。つまり今回の義務化は、「現在の制度で足りない部分を補完する施策」という位置づけです。

義務化で生まれる良循環:発電事業者への波及効果

METIが義務化の効果として強調するもう一つの論点が、発電事業者への波及効果です。小売事業者があらかじめ量的(kWh)な供給力の確保を求められることで、発電事業者にとっては小売事業者との契約に基づき、予見性を持って、あらかじめ電源の整備と燃料の確保が行いやすくなるという効果が期待されます。

2023年4月の実務検討作業部会の報告書でも、「燃料長期契約におけるリスクヘッジの観点から、発電事業者にとっては小売電気事業者と3年先以降から15〜20年程度の電力長期相対取引を締結することが好ましい」と整理されており、義務化がN-3年度(実需給3年前)から確保を求める設計になっている理由の一つです。

代替案との比較:なぜ義務化が選ばれたか

意見募集では、事務局案(kWh確保義務)への対案として「容量市場を改変し、燃料調達に必要な費用を確保する制度の創設」という提案もなされました。広域機関が燃料調達に必要な費用を小売事業者から徴収して発電事業者に支払い、発電事業者が確実に安定したkWhを供給する、という仕組みです。

METIはこの代替案を事務局案と比較した上で、「発電事業者の回収確実性・予見性を高める効果が期待される一方で、事業者間でのkWh取引が減少し、創意工夫が起きにくい点や現在の電力取引の実態からの乖離が大きい点が懸念される」と評価しました。また、スポット市場の魅力を人為的に低下させて依存を減らすという選択肢についても、「経済合理性や効率性を損なう懸念がある」として退けました。

結論として、多様な取引環境を維持しつつ、現在の電力取引実態に即している点で事務局案(kWh確保義務)の方が優れているとの判断が示されています。

中長期取引市場の新設との一体設計

METIは量的(kWh)な供給力確保の義務化と、新たに整備する「中長期取引市場」を車の両輪として位置づけました。中長期取引市場は、先物市場・先渡市場・相対の卸取引・ブローカー経由の取引・個別PPAなどを包含する新たな市場として整備される予定で、小売電気事業者が3年前・1年前の量的(kWh)な供給力を調達できる場を提供するものです。市場開設から当面の間は、最大出力の合計が500万kW以上の大手発電事業者に対して、販売電力量の10%程度(約800億kWh)の市場への供出を求める方向で検討が進んでいます。

WGで示された主な意見・論点

WGの議論では、事務局提案の方向性に同意する意見がある一方で、さまざまな観点からの指摘・懸念も示されました。

小売事業者のビジネスモデルへの影響
意見募集では、「施策の目的を踏まえた達成手段の妥当性について丁寧な説明が必要」「市場連動メニューなど小売電気事業者による多様な工夫の余地を制限しないようにすべき」といった意見が複数寄せられました。第8回WGとりまとめでも、「事務局提案が手段として妥当なのか、他案とのさらなる比較検討を行った上で妥当性の検証が必要」との意見が記録されています。

容量市場との整合性
2022年の電力・ガス基本政策小委員会では、容量市場の導入に当たって「小売電気事業者が果たすべき義務は、容量市場における容量拠出金を支払う義務(金銭支払義務)とすることが適当」と整理された経緯があります。資料の中でもMETI自身が「小売電気事業者が既に容量拠出金を負担していることにも留意が必要」と認めており、既存の負担との関係整理は議論の焦点の一つでした。

競争への影響
「量的な供給力を確保するための適切な仕組みがなければ、小売電気事業者間の競争に影響を与えることが起こりうる」という留意点も資料に明記されています。中長期取引市場の整備と義務化を一体で進めることの重要性が、制度設計の前提として示されていた点は注目されます。

議論の末に固まった制度の骨格

第8回WG(2025年12月10日)でとりまとめ案が示され、制度の骨格がおおむね固まりました。

確保すべき量的(kWh)な供給力の水準は、実需給の3年前(N-3年度)に想定需要の5割、1年前(N-1年度)に7割を基本とし、販売電力量5億kWh未満の小規模事業者については運用開始から一定期間、N-3年度に2.5割・N-1年度に5割とする緩和措置が設けられています。この水準の根拠は2点あります。一つ目は、スポット市場で取引されている量が総需要量の3割を上回る程度であること。二つ目は、2016〜2023年度の各エリアの最低負荷需要が各エリアの総需要に占める割合の平均値が6割程度であり、いずれのエリアでも5割を割り込んだ実績がないことです。

電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG とりまとめ(案)

なお、確保する供給力の電源種別は問われません。ベース・ミドル・ピークのいずれでもよく、FIT電源やFIP電源を含む再エネ電源も計上可能とする方向で整理が進んでいます。また、需要バランシンググループ(BG)のような形態を活用した複数事業者による共同調達も、認める方向で検討されています。

制度の運用開始に向けたスケジュールとして、2026年秋頃に供給計画の様式改正案を確定し、2028年に中長期取引市場での取引を開始、2029年から量的(kWh)な供給力確保の状況の確認を開始することが示されています。

第9回WG(2026年2月4日)で議論された5つの論点

第9回WGでは、以下の5つが集中的に議論されました。

論点①:履行措置のA案・B案

確保量を満たせなかった場合の措置として、性格の異なる2つの案が提示され、議論されました。

A案(容量拠出金の追加徴収)B案(指導・勧告)
仕組み未達kWhに比例して容量拠出金を追加徴収し、追加供給力調達の費用に充当電気事業法に基づく指導・勧告(実施した場合は公表)
事業継続追加徴収を支払えば事業継続可能改善を求める行政指導。要件はガイドライン等で明確化が必要
規律の強度調整単価設定で調整可能未達の程度・期間に応じた柔軟対応が可能
個別事情への対応相対的に難しい相対的にとりやすい
考え方受益者負担(スポット依存時に安価な電気の恩恵を受けた分を負担)規律を通じた改善促進

A案の背景にある考え方は「受益者負担」です。スポット市場に依存する小売電気事業者は、スポット価格が安定している期間は低コストの恩恵を受けている。そのぶん、電力供給の安定化コストを一定程度負担するのが合理的だという整理です。確保量に未達であっても追加徴収を支払えばビジネスモデルは継続可能で、徴収額の設定によって規律の強度を調整できます。一方で各事業者の個別事情への配慮が相対的に難しいという特徴があります。

B案は、単年の未達をもって即時に指導・勧告とするのではなく、未達の程度・期間や中長期取引の実情に応じて調整するとされています。個別事情に配慮した柔軟な対応が相対的にとりやすい一方、事業者の予見性を担保するためにガイドライン等で指導・勧告に至る要件の明確化が必要です。

資料では、制度実施の初期段階においては中長期取引市場を含め中長期のkWhをどの程度確保できる環境にあるかなどの実際の状況を見極めながら措置の強度を調整する必要があるとして、A案とB案のいずれが妥当かについて議論が求められました。

論点②:複数事業者による共同調達

需要バランシンググループ(BG)のように複数の小売電気事業者がBG親に電源調達を委託しているケースも踏まえ、確保量を充足しているかどうかをBGのような形態を含めて共同で評価することを認めるかどうかが論点となりました。個社では中長期のkWhの直接調達が困難な事業者でも、共同調達を通じて履行が可能になる余地が広がることが期待されています。

論点③:確保する供給力の負荷形式(再エネの評価)

確保する量的(kWh)な供給力の電源種別を問わず、FIT電源やFIP電源を含む再エネ電源も計上可能とするかどうかが論点です。再エネを供給力の主力として調達している小売事業者が一定数存在する実態や、今後も再エネを主力電源として拡大していく政策の方向性を踏まえ、電源種別は問わず再エネも含めて計上可能とする方向で整理が進んでいます。

論点④:想定需要の取扱い

義務の基準となる想定需要について、「確保義務を逃れるために想定需要をゆがめるようなことにならないよう留意して制度を設計する必要がある」との意見も踏まえ、算定方法が論点となりました。意見募集では「3年後・1年後の需要を見通すことは不確実性が大きい」との声も多く、各社に一定の裁量を認めつつ恣意的な算出を排除する方法と、直近の販売実績をもとに評価する方法の両案が検討されています。

論点⑤:N-3年度確保に向けた環境整備

3年前の時点で量的(kWh)な供給力を確保するためには、中長期取引市場や内外無差別卸を通じて安定的にkWhを調達できる環境が整っていることが前提です。現状では、内外無差別卸において長期卸のメニューとして3年後以降の商品を約定している事業者がある一方で、提供しているが約定に至っていない事業者や提供していない事業者も存在します。中長期取引市場の取引状況を継続的に検証しつつ、必要があれば発電事業者の対応も含めて追加的な対応を検討することとされています。

まとめ

量的(kWh)な供給力確保義務は、2020〜2022年の市場混乱(スポット高騰・83社の新電力退出・需要家の意図しない契約解除・約450億円の託送料不払い)を出発点として、「需要家への安定・継続した電力供給」と「電力料金の急激な変動の抑制」という2つの目的を達成するために設計が進んでいる制度です。METIは、kWとkWhの一体確保の必要性・発電事業者への予見性付与効果・代替案との比較を根拠として義務化を推進してきました。

制度の方向性に同意する意見がある一方で、ビジネスモデルへの影響や容量市場との整合性を踏まえた検討の必要性も継続的に示されました。第9回WGでは履行措置のA案・B案を中心に5つの論点が議論され、今後は残る論点の整理とともに制度の詳細設計に向けた議論が引き続き進められる予定です。

2028年の中長期取引市場の取引開始、2029年の確保状況の確認開始と、スケジュールはすでに示されています。義務化と新市場の整備が本当に両輪で機能するのか、今後の進展を注目していきましょう。

DENLOG

量的(kWh)な供給力確保と中長期取引市場の整備は、日本の電力市場の構造的な課題に向き合うテーマです。制度の行方を継続してウォッチしていきましょう。

※本記事の情報は作成時点のものです。制度は今後変更される可能性があります。最新の情報は電力広域的運営推進機関(OCCTO)または経済産業省の公表資料をご確認ください。

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