容量市場により、発電事業者等へ支払われる容量確保契約金は、小売電気事業者等が支払う容量拠出金により賄われます。また、小売電気事業者にとって容量市場は、電気事業法上の供給能力確保義務を達成するための手段と位置づけられます。
ここでは、容量市場において小売電気事業者に関係する容量拠出金と供給能力確保義務について、わかりやすく解説します。
容量拠出金
容量拠出金の概要
容量拠出金は、容量市場において供給力を確保するため、広域機関の定款に基づき、小売電気事業者および一般送配電事業者、配電事業者が広域機関に支払うものです。
2024年度以降に広域機関の会員である小売電気事業者については、夏季/冬季ピーク時kWシェア等に応じて、一般送配電事業者、配電事業者については各エリアのH3需要に応じて容量拠出金が広域機関から請求されます。
容量拠出金を原資に、供給力を提供する容量提供事業者へ、容量確保契約金額が交付されます。
小売電気事業者等に請求する容量拠出金は、実需給期間前の容量確保契約金額の減少分(市場退出等による減少分)を加味した金額(①)となります。
実需給期間中に発電事業者の経済的ペナルティやさらなる市場退出等により容量拠出金が減額となったり、容量拠出金の回収額が不足する等、再算定が必要となった場合は、翌年の10月から精算を開始し、追加請求(②)の場合は請求書を、還元(③)の場合は支払通知書を送付することで、当該年度の容量確保契約金額と容量拠出金それぞれの総額を一致させます。
容量拠出金の算出方法
容量拠出金は、小売電気事業者、一般送配電事業者、配電事業者にて負担しますが、その分担は、需要比率に基づいています。
①エリア別容量拠出金総額の算定
まず最初に、エリア別の容量拠出金総額を算出します。
これは、全国の容量拠出金総額をエリア別のH3需要比率に応じて、各エリアに配分することで算定します。
H3需要比率は、メインオークション開催前に公表される最新の供給計画における実需給年度(第5年度)のH3需要比率を用います。
※H3需要比率:ある月における毎日の最大電力(1時間平均)を上位から3日とり. 平均したものをいいます。
②一般送配電事業者・配電事業者の負担総額と請求額の算定
一般送配電事業者・配電事業者の負担総額は、エリアの約定価格×エリアのH3需要に6%を乗じることで算定します。
※送配電負担について、2024年度は6%、2025年度以降は8%となっています。
また請求額については、一般送配電事業者・配電事業者の負担総額を12等分し、各一般送配電事業者・配電事業者の配分比率に応じて毎月の請求額を算定します。
③小売電気事業者の負担総額の算定
小売電気事業者の負担総額は、先に算出した「一般送配電事業者・配電事業者の負担総額」および「経過措置による控除額」を当該エリアの容量拠出金総額から差し引いたものとなります。
「経過措置による控除額」とは、容量市場導⼊直後の⼩売電気事業者の競争環境に与える影響を軽減する観点から、⼀定期間、2010年度末以前に建設された電源の容量確保契約金額に対して、容量提供事業者への⽀払額を年毎に⼀定の率で減額する措置のことで、この分が負担軽減分として差し引かれることになります。
④各小売電気事業者への請求額の算定
各小売電気事業者への請求額は、エリア毎の小売電気事業者の容量拠出金の負担総額を12等分し、各小売
電気事業者の配分比率に応じて毎月の請求額を算定します。
当該小売電気事業者に対する各月の容量拠出金の請求額は、主に以下の要素により算定されます。
イメージとしては、前年度の夏季(7-9月)および冬季(12-2月)のピーク時電力kW実績に応じて配分する感じです。
また、請求対象月と前年度の夏季、冬季のシェア変動についても、託送契約電力kWの実績比率を用いることで、考慮した配分を算出しています。
Ⅰ.前年度の当該エリアの夏季/冬季ピーク時電力kW実績の合計※1
Ⅱ.シェア変動
Ⅲ.シェア変動考慮後のkW(推定)
Ⅳ.シェア変動考慮後の配分比率
※1:夏季ピークとは7~9月、冬季ピークとは12~2月が対象です。
※2:12か月で割った部分については小数点以下の値を切り下げします。
※3:第2回目の容量拠出金説明会では「平均」としておりましたが、「合計」としています。
(参考)夏季/冬季ピーク時電力kW実績の取得方法
夏季/冬季ピーク時電力kW実績は、各一般送配電事業者から広域機関に提出される同時同量監視情報から算定
されます。
容量市場と小売電気事業者の供給能力確保義務
電気事業法上、小売電気事業者は、供給電力量(kWh)の確保のみならず、中長期的に供給能力(kW)を確保する義務があります。
容量市場の創設後は、国全体で必要な供給力(kW価値)を、市場管理者である広域機関が容量市場を通じて一括確保をすることとなり、広域機関は、定款で規定された「容量拠出金」として、小売電気事業者等からその費用を徴収します。
よって、小売電気事業者にとって容量市場は、電気事業法上の供給能力確保義務を達成するための手段と位置づけられます。
小売電気事業者が供給力確保に果たす役割
第43回電力・ガス基本政策小委員会(2021年12月)「今後の電力システムの新たな課題について中間取りまとめ」において、小売電気事業者が供給力確保に果たす役割が整理されました。
小売電気事業者が供給力確保に対して果たす義務は、容量市場の導入前後で大きく変わります。
容量市場導入前(2023年度まで)
2021年12月時点の電気事業法第2条の12第1項では、小売電気事業者に対して、正当な理由がある場合を除き、自らの小売需要に応じた供給能力の確保を義務づけています。
この電気事業法における供給能力確保義務では、各小売電気事業者が自らの小売需要に応じた供給能力(一定の供給予備率も含む)を確保することが求められています。
この供給能力確保義務を適切に履行していない場合には、同条第2項の規定に基づき、供給能力確保命令が発出され得ることとなり、当該命令の処分基準として、以下の内容が定められています。
i. 定常的に、供給能力の不足を発生させている場合
ii. 短い時間であっても、極めて大きな供給能力の不足を発生させた場合
iii. 過去の実績や需要の性質に照らして、供給能力の確保が十分ではなく、実需給の段階で、供給能力不足を発生させる蓋然性が高いと認められる場合
iv. 広域機関による供給能力を確保するための費用の請求に応じない場合
ⅰやⅱのような状況は、供給能力の不足分について、当該小売電気事業者が一般送配電事業者からインバランス供給を受けることにより顕在化することとなり、例えばこうした状況が常態化しているなどの場合には、供給能力確保命令を発動することがあり得ると考えられます。
供給能力確保義務のもとでは、スポット市場売り切れに近い状況であっても、小売電気事業者は供給力不足を解消するため、高値で応札する必要があり、さらなる市場高騰を招く要因の一つになっていたと考えられます。
容量市場導入後(2024年度以降)
容量市場の創設後は、国全体で必要な供給力(kW価値)を、市場管理者である広域機関が容量市場を通じて一括確保をすることとなり、広域機関は、定款で規定された「容量拠出金」として、小売電気事業者等からその費用を徴収します。
よって、小売電気事業者にとって容量市場は、電気事業法上の供給能力確保義務を達成するための手段と位置づけられ、供給能力確保義務により果たすべき義務は、容量拠出金を支払う義務へ変更となります。
容量市場導入後は、小売電気事業者は、容量拠出金を支払うことで、供給能力確保義務を果たしていることになります。
ただし、注意すべきは、容量市場導入後であっても、託送供給等約款に基づく計画値同時同量においては、小売電気事業者に対し、計画値に応じた kWh の確保義務が継続して求められますので、引き続き、供給力確保義務は継続することとなります。
2023年度まで | 2024年度以降 | |
供給能力 確保義務 | 原則として、小売電気事業者は自ら kWh を確保することを通じて、供給能力確保義務を果たすことが必要。 一方で、以下の全ての条件を満たす場合、法第 2 条の 12 第 1 項の「正当な理由がある」と考えられる(セーフハーバー)。 ① 需給ひっ迫でない場合(広域予備率(※1)が3%を越える場合をいう。) ② スポット市場に入札したにもかかわらず、スポット市場において売り切れ(ブロック入札の売れ残りを控除した後の売残量が 0 となる場合をいう。)が生じたことにより、インバランスが発生する場合 ③ スポット市場(※2)及び時間前市場において、小売電気事業者が市場調達を合理的に行おうとしているにもかかわらず(※3)、取引が成立しない場合 ④ 当該小売電気事業者が、事後的にインバランス料金の支払いを行う場合 (※1)2021 年度は、当該インバランスを発生させた小売電気事業者のエリアの予備率 (※2)2021 年度に限る (※3)市場において買い応札を行わない、常に市場の約定価格と比較して著しく安価な価格で買い入札を続ける等でない場合 | 容量市場における容量拠出金を支払う義務(金銭支払義務)とする。 |
計画値 同時同量 義務 | 左記と同様だが、「広域予備率(※1)が 3%を 越える場合」の要件は無し。 |
計画値同時同量義務
計画値同時同量制度では、需要BG(小売電気事業者等)は合理的に需要を予測し、その予測に応じて供給力を調達することが求められていることから、小売電気事業者は、引き続き、合理的に予測した需要計画に応じた供給力を確保する義務(計画値同時同量義務)を負うことになります。
実際の実需給断面では、計画と実績には差が生じ、その差はインバランスとして、一般送配電事業者が調整力を用いて調整を行います。
託送供給等約款においては、頻繁に著しいインバランスが発生する場合(下記抜粋の(ロ))、接続供給契約を解約することがある旨規定されており、計画値同時同量義務を順守できなかった場合のペナルティともいえます。
54 解 約 等
(1) 当社は,次の場合には,接続供給契約,振替供給契約,発電量調整供給契約または需要抑制量調整供給契約を解約することがあります。
なお,この場合には,その旨を文書により契約者,発電契約者または需要抑制契約者にお知らせいたします。
また,契約者,発電契約者または需要抑制契約者がロに該当する場合は,その旨を文書等により発電者,需要者または需要者と電力需給に関する契約等を締結している契約者にお知らせすることがあります。
イ・ロ 略
ハ 契約者,発電契約者または需要抑制契約者が次のいずれかに該当し,当社が契約者,発電契約者または需要抑制契約者にその改善を求めた場合で,39(適正契約の保持等)に定める適正契約への変更および適正な使用状態,発電・放電状態または需要抑制状態への修正に応じていただけないとき。
(イ) 8(契約の要件)を欠くに至った場合
(ロ) 接続供給の場合で,頻繁に接続対象電力量と接続対象計画電力量との間に著しい差が生じるとき。
(ハ) 発電量調整供給の場合で,頻繁に発電量調整受電電力量と発電量調整受電計画電力量との間に著しい差が生じるとき。
(ニ) ~(ト) 略
また、電力広域的運営推進機関の「送配電等業務指針」において、託送供給契約者による計画の提出について記載されており、託送供給契約者に対して「合理的な予測に基づく需要の想定」や「需要計画に対応した供給力の確保の計画」の提出を求めています。
「業務規程」には指導・勧告の実施に関する記載(第179条) があり、「需給状況の監視の業務において、小売電気事業者若しくは特定送配電事業者(登録特定送配電事業者に限る。)たる会員が、過去の実績等に照らして需要に対する適正な供給力を確保する見込みがないとき」には、「当該電気供給事業者に対する指導又は勧告を行う」とされています。
また、「指導又は勧告を行ったときは、遅滞なく、対象となった電気供給事業者の氏名又は商号、指導又は勧告の内容及びその理由を公表する。」とあり、指導または勧告対象となった事業者は、その理由とともに公表されることになります。
計画値同時同量義務において、小売電気事業者は、供給能力確保義務を果たす必要がありますが、電気事業法による法的義務ではなくなったことから、以前のようなスポット市場が売り切れ時の買い入札価格の高騰といった事象までは発生しづらくなるのではないでしょうか。
まとめ
容量拠出金は、容量市場において供給力を確保するために、広域機関の定款に基づき、小売電気事業者および一般送配電事業者、配電事業者が広域機関に支払うものです。
2024年度以降に広域機関の会員である小売電気事業者については、夏季/冬季ピーク時kWシェア等に応じて、一般送配電事業者、配電事業者については各エリアのH3需要に応じて容量拠出金が広域機関から請求されます。
容量拠出金を原資に、供給力を提供する容量提供事業者へ、容量確保契約金額が交付されます。
電気事業法上、小売電気事業者は、供給電力量(kWh)の確保のみならず、中長期的に供給能力(kW)を確保する義務があります。
容量市場の創設後は、国全体で必要な供給力(kW価値)を、市場管理者である広域機関が容量市場を通じて一括確保をすることとなり、広域機関は、定款で規定された「容量拠出金」として、小売電気事業者等からその費用を徴収します。
よって、小売電気事業者にとって容量市場は、電気事業法上の供給能力確保義務を達成するための手段と位置づけられ、供給能力確保義務により果たすべき義務は、容量拠出金を支払う義務へ変更となります。
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