長期脱炭素電源オークションでは、電源種別ごとに入札価格の上限が定められており、その価格以下での応札が求められます。更に応札価格については、織り込むことが認められるコストが決められており、電力・ガス取引監視等委員会が落札候補案件ごとに監視を行います。
ここでは、長期脱炭素電源オークションの応札価格や事業者の収入について、わかりやすく解説します。
応札価格の考え方
制度検討作業部会 第八次中間とりまとめ(2022年10月)において、入札価格の在り方について以下の考えが示されました。
- 現行容量市場では、市場支配力を有する事業者が価格つり上げを行うことを防止するため、入札ガイドラインにおいて、支配的事業者が価格つり上げに該当しない応札価格の考え方が示されている。
- しかし、長期脱炭素電源オークションでは、脱炭素電源への新規投資を対象に入札を実施するため、既設電源を多く保有する市場支配力のある事業者が存在する現行容量市場とは異なり、基本的に市場支配力を有する事業者は存在しないことから、 市場支配力を有する事業者を念頭においた入札価格に関する規律は必要ではないと考えられる。
- 一方で、入札によって落札電源を決定する仕組みであることから、国民負担の最小化を図るため、全ての事業者を対象に「上限価格の設定」や「入札価格の監視」等の入札価格に対する一定の規律を設けることが必要である。
これを受けて、審議会等にて、入札価格に織り込むことのできるコストや入札価格の監視方法等が検討され、長期脱炭素電源オークションの制度設計に反映されました。
上限価格の設定
長期脱炭素電源オークションの応札価格には上限価格が設定されており、電源種毎に、新設・リプレース・改修の区分により上限価格が異なり、上限価格以下での応札が必要となります。
電源の新設インセンティブに配慮しつつ、国民負担の最小化を図る観点から、発電コスト検証の数値をベースとして上限価格を設定しています。
なお、上限価格は、10万円/kWを上限と定めていることから、発電コスト検証の数値から算定した値が10万円/kW以上となった電源種については、10万円/kWに修正されています。
※1:電源が設置されたエリアによって、以下のとおり異なります。(揚水・蓄電池共通)北海道:57,598円/kW/年、東北:55,308円/kW/年、東京:74,690円/kW/年、中部:59,738円/kW/年、北陸:56,101円/kW/年、関西:60,761円/kW/年、中国:56,477円 /kW/年、四国:55,826円/kW/年、九州:60,595円/kW/年
応札価格に織り込むことが認められるコスト
応札価格に織り込むことが認められるコストは、①資本費、②運転維持費、③事業報酬(資本コスト)とされています。それぞれの内訳は以下の表のとおりです。
建設後に容量収入を原則20年間で得ることとなるため、長期間の中で物価が大きく変動する可能性も考えられますが、応札価格には物価変動のリスクプレミアムは含まないこととし、応札時点からの物価変動を事後的に約定単価へ反映することとしています。
応札価格の監視方法
電力・ガス取引監視等委員会は、応札の受付期間終了後、提出された落札候補電源の応札フォーマットを基に、必要に応じてヒアリングなどを実施して、応札価格の算定方法及び算定根拠についての説明や、証憑(契約書や見積書など)の提出を求めるなど、ガイドラインに記載の方法に基づいて監視を行います。
電力・ガス取引監視等委員会による「応札価格の監視」の結果、個別の費用項目について応札価格に含めることが認められない金額が生じた場合には、事業者及び広域機関に対して、その旨が通知(不合格通知)されます。
不合格通知を受けた事業者は、通知内容を反映した応札価格を再度算定し、委員会の確認を経た上で、その金額を応札価格とし、委員会から通知があった日から14日以内に、広域機関に応札価格の修正を申し出る必要があります。
ただし、一部の費用について応札価格に含めることが認められないことにより、投資回収が困難と判断した場合は、当委員会から通知があった日から14日以内に、委員会と広域機関に応札の取下げを申し出ることで、応札の取下げが可能となります。
落札事業者の収入イメージ
長期脱炭素電源オークションの落札事業者へは、広域機関からリクワイアメントの達成状況に応じて固定費水準の容量確保契約金額が支払われます。
また、事業者は、アップサイドとして新設またはリプレースした電源を活用して他市場からの収入(卸市場・非化石市場等)を得ることができますが、他市場からの収入から可変費を差し引いた値を「他市場収益」とし、その約9割を広域機関に還付する必要があります。
長期脱炭素電源オークションの応札価格算出においては、オークションを利用した電源による他市場収益を「0」とした上で、事業者の事業報酬(資本コスト)を含めていますので、事後的に他市場収益の約9割の金額を広域機関に還付する仕組みとしているものです。
※1:物価変動分の補正等により容量確保契約金額が変動する可能性がある
※2:前年度において他市場収益のマイナスが発生した場合、当年度の他市場収益から減額した後の金額を、当年度の他市場収益とする
他市場収益の監視
相対取引の監視
他市場からの収入(卸市場、非化石市場等)を相対契約によって得ようとする場合は、意図的に他市場収益を発生させないように安価な価格とし、還付を回避するといった行為を防止するため、その相対契約自体が、次のいずれかの規律を満たしているか、契約締結時(相対契約に基づく供給開始前)に監視等委の監視を受ける必要があります。
①内外無差別規律
- 中長期的な観点を含め、相対契約において発電から得られる利潤を最大化することが本制度に基づく他市場収益の適切な還付につながることを踏まえ、社内外・グループ内外の取引条件を合理的に判断し内外無差別に電力販売を行い決定された価格となっていること。
②市場価格規律
出典:長期脱炭素電源オークションガイドライン
- 相対契約の価格も市場価格に影響を受け、最終的には市場価格に収斂することを踏まえると、市場価格の水準に比して不当に低くない水準以上であれば、第三者へ販売するのと同等の価格で販売していることが推定されるといえることから、当該水準以上であることを基本として設定した価格となっていること。
燃料費価格の監視
可変費についても、不当に高い可変費を計上することにより、他市場収益を 0 とすることが考えらます。
典型的には、応札事業者が自社グループ会社から購入する際の燃料費を、不当に高い金額とすることにより、可変費が高い金額となり、他市場収益を0とすることで還付を回避するといったことが考えられます。
このような燃料費を用いた意図的な他市場収益の還付逃れを防止する観点から、トーリングに準ずる形の卸契約の場合に限らず、全ての案件について、以下のとおり燃料費価格の監視が行われます。
出典:長期脱炭素電源オークションガイドライン
- 電力・ガス取引監視等委員会において、燃料費が、過去の当該案件の燃料費、全日本通関 CIF 価格、燃料市況価格、直近のコスト検証の諸元となっている燃料費又は他の案件の燃料費に比して明らかに高額となっているなど、特異な金額となっていないことを確認する。
- 特異な金額となっている場合には、合理的な理由があると認められる場合を除き、特異な金額を控除した額を、他市場収益の計算に用いる燃料費とする。
- また、燃料費以外の可変費についても、他の案件の同じ可変費に比して明らかに高額となっているなど、特異な金額となっている場合には、上記と同様の扱いとする。
容量確保契約金額の受取
落札事業者は、メインオークションと同様に、容量確保契約金額を月毎に受け取ります。また、落札事業者の他市場収益の確定額を元に、事後的な還付額を年毎に支払います。
まとめ
制度検討作業部会 第八次中間とりまとめ(2022年10月)において、長期脱炭素電源オークションは、入札によって落札電源を決定する仕組みであることから、国民負担の最小化を図るため、全ての事業者を対象に「上限価格の設定」や「入札価格の監視」等の入札価格に対する一定の規律を設けることが必要であるとの整理が行われました。
長期脱炭素電源オークションでは、入札価格に上限が設けられ、それ以下での応札が必要となります。
応札価格には、①資本費、②運転維持費、③事業報酬(資本コスト)を織り込むことが認められていますが、応札後には、電力・ガス取引監視等委員会による応札価格の監視が行われ、個別の費用項目について応札価格に含めることが認められない金額が生じた場合には、事業者及び広域機関に対して、その旨が通知(不合格通知)されます。
また、事業者は、アップサイドとして新設またはリプレースした電源を活用して他市場からの収入(卸市場・非化石市場等)を得ることができますが、他市場からの収入から可変費を差し引いた値を「他市場収益」とし、その約9割を広域機関に還付する必要があります。