【長期脱炭素オークション】対象電源および募集量

現行の容量市場は、落札電源の大部分が既設電源となっていますが、電源への新規投資を促進するべく、現行の容量市場の入札とは別に、脱炭素電源を対象とした入札を行い、容量収入を得られる期間を「1年間」ではなく「複数年間」とする方法により、巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与する入札制度が、長期脱炭素オークションとして、2023 年度から新たに創設されることとなりました。

ここでは、長期脱炭素オークションの対象電源および募集量について、わかりやすく解説します。

目次

容量市場の構成

容量市場は、広域機関がオークションを開催し、全国で将来必要な供給力を一括で確保する制度です。

容量市場では、4年後の1年間に対して供給力を確保する「メインオークション」に加え、メインオークションでは供給力が不足すると判断された場合に開催される「追加オークション」から構成されていました。

しかし、単年度のオークションでは、長期的な収入予見性が確保されず、電源投資が減少する懸念があったことから、2023年度より「長期脱炭素電源オークション」が新設されました。

長期脱炭素電源オークションでは、原則20年間にわたって容量市場収入が確保できることから、長期的な投資回収予見性が確保され、電源投資が促進すると期待されています。

出典:電力広域的運営推進機関 長期脱炭素電源オークションの制度詳細について

2023年度の長期脱炭素電源オークション募集量

2023年度の長期脱炭素電源オークションの募集量は、400万kWです。

蓄電池と揚水および既設火力の改修案件(水素またはアンモニア混焼およびバイオマス専焼)は、それぞれ100万kWを募集上限とされております。

また、LNG専焼火力は、脱炭素電源とは別に、2023~2025年の3年間で600万kWの募集量が設定されています。

出典:電力広域的運営推進機関 長期脱炭素電源オークションの概要について
DENLOG

蓄電池と揚水が合わせて上限が100万kWと決められており、約定結果が蓄電池と揚水でどのような割合になるか、非常に興味深いところです。

長期脱炭素電源オークションの対象電源

本オークションの対象とする電源は、脱炭素電源の新設・リプレースおよび既設火力の脱炭素化への改修における新規投資とし、電源区分は安定電源と変動電源です。ただし、短期的な電力需給ひっ迫防止の観点から、2023~2025年度の3年間はLNG専焼火力も対象としています。

また、電源ごとに供給力提供開始期限、最低入札容量を設けています。

出典:電力広域的運営推進機関 長期脱炭素電源オークションの制度詳細について
※1:設備容量(発電端)から、当該電源の所内消費電力および自家消費のために必要な容量、自己託送および特定供給のために必要な容量ならびに特定送配電事業者が利用するために必要な容量等、長期脱炭素電源オークションの要件を満たさない発電容量、 FIT・FIPの適用対象となる容量を控除した容量とします。
※2:「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)付火力」や「アンモニア混焼を前提としたLNG火力の新設・リプレース」、合成メタンを燃料とする発電所は、本制度の対象だが、現時点では応札が想定されないことと、上限価格を設定することが困難であることを踏まえ、本年度のオークションでは対象外とします。
※3:既設火力をバイオマス専焼にするための改修案件(同一プラントの一部の設備容量が別の脱炭素技術(アンモニア等)による設備容量である場合を含む)は、改修によって新たに増加する脱炭素化kW分を本制度の対象とし、燃料の専焼に至るまでは7割以上の混焼比率が必要です。
※4: 1日1回以上3時間以上の運転継続が可能な能力を有すること

安定電源

安定電源とは、「計量単位の期待容量が1,000kW以上の安定的な供給力を提供するもの」と定義されています。

期待容量とは、「電源等情報として登録した設備容量のうち、実需給年度において供給区域の供給力として期待できる容量」とされており、具体的な算出方法は、「電力需給バランスに係る需要及び供給力計上ガイドライン」にて定義されています。

長期脱炭素電源オークションでは、安定電源は、蓄電池、水力電源(貯水式、調整式、揚水式)、火力、地熱、原子力が該当します。

蓄電池

蓄電池は、今後、再エネが出力制御されるような供給過剰の時間帯に蓄電し、需要が高まる時間帯で放電するといった、再エネ導入を促進する働きが期待されています。需給調整市場においても調整力としての活躍が期待されており、脱炭素電源として長期脱炭素電源オークションの対象となっています。

本オークションの対象となる蓄電池の条件は以下のとおりです。

蓄電池の条件
  • 蓄電池の新設・リプレースに該当すること
  • 設備容量(送電端)が1万kW(10MW) 以上であること
  • 1日1回以上3時間以上の運転継続が可能な能力を有すること
  • 調整機能を具備し、制度適用期間中はその機能を維持すること
出典:発電コスト検証ワーキンググループ(第4回会合)系統安定化費用について

1回3時間以上の運転継続が必要となりますので、パワーコンディショナー(PCS)の出力(kW)に対し、蓄電池容量(kWh)が3倍以上確保されている必要があります。

蓄電池の調整機能とは

電力系統を安定的に運用するためには、調整力は必要不可欠であり、現状、主に火力発電がその機能の大部分を担っています。一方、足元の需給調整市場においては、調整力の応札不足(調達不足)が続いています

今後、変動再エネが拡大する中で、調整力・慣性力を計画的に確保しつつ、調整力の脱炭素化(脱炭素型の調整力への転換)も併せて進めていくため、長期脱炭素電源オークションでは蓄電池や揚水に対して調整機能の具備を求めることとなりました。

なお、調整機能には、そのエリアの中央給電指令所から指令が必要ですので、原則、光ケーブルによる専用線の施設が必要となります。

出典:第84回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会 長期脱炭素電源オークションにおける揚水発電・蓄電池の調整機能について
DENLOG

GF,LFC,EDCといった調整力については、以下の記事で解説していますので、ご参照ください。

水力電源(揚水式)

出典:九州電力 揚水発電の特徴と仕組み

揚水発電は、再エネ(主に太陽光)による余剰電力を蓄え、需要が高まる時間帯で放電することで再エネ導入を促進しています。

また、需給がひっ迫時は、需要の少ない夜間に電力を蓄え、昼間の需要ひっ迫時に放電することで安定供給を支える重要な電源として活躍しています。

再エネの導入が進むにつれ、揚水発電は、安定供給を支える調整力供給源としての重要性が向上するとともに、再エネの蓄電による脱炭素型の調整力としても、維持・強化していくことが必要不可欠と整理されています。

ただし、充放電における総合効率(=放電量÷充電量)は、蓄電池(90%程度)と比較すると、揚水発電(65%~75%程度)は効率が悪いため、電力システム改革後の市場環境では採算性が低いため、維持管理コストが供出できず、設備の維持が課題となっていました。

長期脱炭素電源オークションの対象となる揚水発電所の条件は以下のとおりです。

揚水発電所の条件
  • 揚水発電所の新設・リプレースに該当すること
  • 設備容量(送電端)が1万kW(10MW) 以上であること
  • 1日1回以上3時間以上の運転継続が可能な能力を有すること
  • 調整機能を具備し、制度適用期間中はその機能を維持すること
DENLOG

揚水発電所に適したダムを作れる場所は、ほとんど残っていないため、長期脱炭素電源オークションでは、リプレースとしての利用が予想されます。揚水のリプレースがオークションの対象とされたのは、揚水発電所の設備維持を手助けする目的もあると思われます。

水力電源(調整式、貯水式)

長期脱炭素電源オークションの対象となる水力電源(安定電源)の条件は以下のとおりです。

水力電源(安定電源)の条件

水力電源(調整式、貯水式に限る)の新設・リプレースに該当し、本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が 10 万キロワット以上の安定的な供給力を提供するもの

出典:東京電力RP 発電方法の種類

調整式水力

河川の流量を調整池で調整して発電する方式です。取水ダムを大きくしたり、水路の途中に調整池をつくることにより、一日あるいは数日間の発電量をコントロールすることができます。

出典:東京電力RP 発電方法の種類

貯水池水力

調整池より大きな貯水池を利用する方式です。雪どけ水や梅雨、台風の雨水などを貯水し、渇水期に利用するなど、年間を通した水量の調整ができます。

火力電源(脱炭素電源)

長期脱炭素電源オークションの対象となる火力電源(脱炭素電源)の条件は以下のとおりです。

火力電源(脱炭素電源)の条件
  • LNG に熱量ベースで水素を10%以上混焼させる火力電源または水素専焼の火力電源の新設・リプレースに該当し、本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が 10 万キロワット以上の安定的な供給力を提供するもの
  • 既設の火力電源をバイオマス専焼にするための改修に該当し、改修によって新たに生じるバイオマス部分の本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が 10 万キロワット以上の安定的な供給力を提供すること
  • 既設の火力電源をアンモニア混焼(ただし、熱量ベースでアンモニアを 20%以上混焼させる場合に限る。)又は水素混焼(ただし、熱量ベースで水素を 10%以上混焼させる場合に限る。)にするための改修に該当し、改修によって新たに生じるアンモニア又は水素部分の本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が5万キロワット以上(※6)の安定的な供給力を提供すること

なお、オークション参加時には、脱炭素化に向けた対応をまとめたロードマップを提出する必要があります。

火力電源(LNG専焼)

長期脱炭素電源オークションでは、原則、脱炭素電源を対象としていますが、短期的な電力需給ひっ迫防止の観点から、2023~2025年度の3年間はLNG専焼火力も対象としています。

ただし、供給力提供開始から10年後までの間に脱炭素化に向けた対応(改修のための本制度への応札等)を開始することや、2050年までの脱炭素化ならびに落札後6年以内の供給力提供開始を条件としています。

長期脱炭素電源オークションの対象となる火力電源(LNG専焼)の条件は以下のとおりです。

火力電源(LNG専焼)の条件

LNG のみを燃料とする火力電源の新設・リプレースに該当し、本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が 10 万キロワット以上の安定的な供給力を提供すること

なお、オークション参加時には、脱炭素化に向けた対応をまとめたロードマップを提出する必要があります。

バイオマス、地熱、原子力電源

長期脱炭素電源オークションの対象となるバイオマス電源の条件は以下のとおりです。

バイオマス電源の条件

バイオマス、地熱、原子力電源の新設・リプレースに該当し、本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が 10 万キロワット以上の安定的な供給力を提供するもの

変動電源

変動電源(単独)とは、「単体の期待容量1,000kW以上の供給力を提供するもののうち、自然変動電源に該当するもの」と定義されています。

期待容量とは、「電源等情報として登録した設備容量のうち、実需給年度において供給区域の供給力として期待できる容量」とされており、具体的な算出方法は、「電力需給バランスに係る需要及び供給力計上ガイドライン」にて定義されています。

長期脱炭素電源オークションでは、変動電源は、水力(流込式)、太陽光、陸上風力、洋上風力が該当し、条件は以下のとおりです。

変動電源の条件

水力(流込式)、太陽光、陸上風力、洋上風力の新設・リプレースに該当し、本オークションに参加可能な設備容量(送電端)が 10 万キロワット以上の供給力を提供するもの

供給力を提供する実需給期間

容量市場のメインオークションでは4年後、追加オークションでは1年後の単年度を実需給期間と設定し、供給力確保を図る仕組みとしていますので、下図のとおり、メインオークションの開催をN年度とするとN+4年度に実際に供給力を提供する必要があります。

長期脱炭素電源オークションでは、脱炭素化を図る新設・リプレースや改修が対象となるため、建設リードタイムも踏まえつつ⾧期的な実需給期間を設けて電源を確保していく仕組みとし、電源ごとに供給力提供開始期限が決められています

出典:電力広域的運営推進機関 第46回 容量市場の在り方等に関する検討会 資料4

まとめ

長期脱炭素電源オークションの対象とする電源は、脱炭素電源の新設・リプレースおよび既設火力の脱炭素化への改修における新規投資とし、電源区分は安定電源と変動電源です。ただし、短期的な電力需給ひっ迫防止の観点から、2023~2025年度の3年間はLNG専焼火力も対象としています。

2023年度の長期脱炭素電源オークションの募集量は、400万kWですが、蓄電池と揚水および既設火力の改修案件(水素またはアンモニア混焼およびバイオマス専焼)は、それぞれ100万kWを募集上限とされております。

また、LNG専焼火力は、脱炭素電源とは別に、2023~2025年の3年間で600万kWの募集量が設定されています。

また、電源ごとに供給力提供開始期限、最低入札容量が設けられています。

蓄電池と揚水は同じ枠内で合計100万kWを募集上限としており、どのような割合で約定するのか、興味深いところです。

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