全国9つに分けられた電力系統をつなぐ連系線の運用容量には、マージンと呼ばれる枠が割り当てられています。ここでは、マージンの設定方法や確保理由などをわかりやすく説明します。
連系線のマージンとは
連系線に流すことのできる電力の上限を運用容量といいますが、運用容量の内訳は以下の図のように区分されています。
運用容量は、空容量、計画潮流、マージンに区分され、マージンはその名の通り、運用容量の一部を万が一のための裕度として確保しているものです。
マージン設定のスケジュール
マージンは、広域機関のマージン検討会にて設定方法が定められており、下記スケジュールに従って、課題検討や算出が行われた後、算出結果が公表されます。毎年11月から検討が開始され、年度末には算出結果が公表されます。
公表されたマージンは、広域機関のマージン検討会資料や系統情報サービスで確認することができます。下の図は、実需給断面の東京中部間連系線の情報で、マージンは一番左に記載された600MWが順方向(中部向き)、逆方向(東京向き)ともに確保されていると読み取れます。
マージンの確保理由
マージンは、次の3つに分類されます。
「需給バランスに対応したマージン」
「周波数制御に対応したマージン」
「連系線潮流抑制のためのマージン」
さらに、「通常考慮すべきリスク」と「稀頻度リスク」による区分も加わるため、下表のような複雑な区分になります。ここでは、代表的な確保理由(A1,B1,B2,C1,C2)について説明します。
需給バランスに対応したマージン A1
マージン検討会資料では「需給バランスの確保を目的として、連系線を介して他エリアから電気を受給するために設定するマージン」と整理されています。
このマージンは、電力系統の端に位置し、なおかつ比較的小規模のエリア(四国エリア、北陸エリア)に設定されています。
マージンの確保理由は、両エリアの最大電源ユニットが事故などで脱落した際に、小規模なエリアであるため、エリア予備力が不足となる可能性があり、予備力不足分の電力を連系線を通じて確保できるように、予め連系線の枠をマージンとして押さえておくというものです。
マージンを抑えておらず、四国エリアや北陸エリアに流れ込む潮流で連系線を使い切っていた場合、最大電源ユニットの事故が発生すると、予備力不足となっても他エリアからの追加の電力融通ができなくなってしまいます。
これは、系統容量が小さい両エリアに、大きな電源ユニットが存在することから、事故時に予備力不足が発生する可能性が生じ、連系線のマージンを活用することで、供給信頼度を確保しています。
周波数制御に対応したマージン B1,B2
マージン検討会資料では、「電力系統の異常時に電力系統の周波数を安定に保つためまたは周波数制御(電源脱落対応を除く)のために設定するマージン」と整理されています。
このマージンは、交流ー直流変換設備や周波数変換設備を用いた連系設備(北海道本州間、東京中部間)に設定されています。これらの変換設備を用いた連系設備では、潮流の向き、量を瞬時に制御可能であることから、一方のエリアの周波数が低下した際に瞬時に電力を融通する機能を付加しています。
下記は、東京中部間連系設備の周波数変換設備に具備しているEPPSという機能についての説明です。
東京エリアまたは中部エリアの周波数があらかじめ定めた周波数を下回った場合に、健全なエリアから瞬時に600MW+αの電力を送電することができます。これにより、地震などによる大規模な電源脱落による周波数低下をある程度防ぐことができます。
同じ機能は、北海道本州間連系設備にも具備されており、緊急時AFCとして、北海道エリアの周波数が低下した際に、本州から北海道に向けて瞬時に電力を融通することができます。
連系線潮流抑制のためのマージン C1,C2
マージン検討会資料では「電力系統の異常時に電力系統を安定に保つことを目的として、当該連系線の潮流を予め抑制するために設定するマージン」と整理されています。
このマージンは、それぞれ北海道本州間連系設備(以下、北本)、東北東京間連系線に固有の目的で設定されています。
まず、北海道本州間連系設備に設定した理由ですが、北海道から本州向けに連系線潮流が流れている状態で連系設備が緊急停止すると、潮流は行き場を失い、北海道エリアの供給力が余剰となるため、周波数が上昇します。
流れる連系線潮流が多いほど、周波数上昇は大きくなりますので、一定の周波数上昇に抑えたい場合は、連系線の潮流を一定値以下にしておく必要があり、マージン設定により、連系線の潮流を一定値以下に抑制しています。このマージンは北海道の周波数上昇を抑制するために設定されたものです。
一方、東北東京間連系線の設定理由ですが、こちらは少し複雑で、東京エリアで複数の電源が脱落した場合、東北から東京への送電量が自然と増加し、その増加分で連系線の運用容量を超過する恐れがあります。
運用容量を超過した状況での連系線事故を避けるために、マージンを設定することで未然に運用容量の超過を防ぐという目的です。
このマージンは最終的には運用容量超過状態での連系線事故を懸念したものですので、連系線付近の荒天候時などの連系線の事故リスクが高まった場合に設定される運用となっています。
全国のマージン設定
2022年度(8月平日昼間)の連系線マージン算出結果は以下の図です。
これを見ると、マージンは一部の連系線(北海道本州間、東北東京間、東京中部間、北陸フェンス)でのみ設定されていることがわかります。
運用容量からマージンを差し引いた値が、小売電気事業などで使用できる連系線の空容量になります。
まとめ:連系線のマージン
連系線のマージンとは、運用容量の一部を万が一のための裕度として確保しているものです。
マージンの確保理由は、大きく3つの分類「需給バランスに対応したマージン」「周波数制御に対応したマージン」「連系線潮流抑制のためのマージン」に分けることができ、広域機関で算出した後、年度末に公表されています。
連系線の運用容量については、下記の記事で紹介しています。
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