連系線の運用容量を決める上限値は、「熱容量等」「同期安定性」「電圧安定性」「周波数維持」の制約要因により決定されます。ここでは、「同期安定性」について説明します。
制約要因
連系線に限らず、電力系統に流せる電力の量(潮流)は、主に「熱容量等」「同期安定性」「電圧安定性」「周波数維持」の制約要因により決定されます。下図のように4つの制約要因すべてをクリアできる潮流の値が上限値であり、それが運用容量となります。
同期安定性とは
同期安定性は、制約要因の中で理解するのが最も難しいかもしれません。
発電機は同じ周波数で同期して運転する必要がありますが、互いの発電機が同期して安定的に運転継続できる度合いを「同期安定性」といいます。
送電線停止にような電力系統の状態変化がおきると、発電機は不安定な状態に近づき、限界を超えた発電機は自動停止してしまいます。そうならないよう、事前にシミュレーションで同期安定性を考慮した限界の潮流を計算し、同期安定性が制約要因になる運用容量を求めています。
同期安定性を説明では、「馬と荷車」「回転盤とヒモ」のモデルが良く使われます。
理解するのにとても役立ちますので、ご覧ください。
馬と荷車のモデル
このモデルでは、「馬=発電機」「荷車=需要、負荷」「ロープ=送電線」と置き換えます。
電力系統を、3頭の馬(発電機)が、少し伸び縮みするロープ(送電線)を使って、3台の荷車(負荷)を引っ張っている様子に置き換えたというイメージです。安定的に馬が荷車を引っ張り続けることが、電力の安定供給に対応しています。
ここで送電線の事故停止を考えてみます。送電線の事故停止は、ロープが突然切れたことに相当します。上の図②でロープが切れた馬は自動的に止まり、残りの2頭で荷車3台を引っ張ることになるのですが、ロープが切れた直後は荷車の負担が残りの馬に急激に加わるので、馬がバランスを崩すことも考えられます。連鎖的に他の馬もバランスを崩してしまうと、さらに他の馬にも連鎖し・・・といった具合に全頭が停止してしまうと、大停電になってしまう。
このようなに馬(発電機)と荷車(負荷)でバランスを取っている状況というのが、電力系統を馬と荷車で表したときのイメージです。
このモデルは、ブラックアウトと呼ばれる広範囲にわたる大規模な停電の発生理由について説明するときによく用いられます。
回転盤とヒモのモデル
このモデルでは、「回転体=発電機」「おもり=需要、負荷」「ヒモ=送電線」と置き換えます。電力を伝える仕組みを、回転体の間をつないだヒモで表現しています。
発電と書かれた回転体のハンドルを回すと、6本のヒモを経由して需要と書かれた回転体も回り、おもりが持ち上がるという仕組みで、発電機の電力が送電線を経由して需要に伝わる様子をモデル化したものです。
発電側のハンドルを回すと、左図のようにヒモは少しねじれ、需要の回転体は少し遅れて回転します。需要のおもりがある一定値を超えると、右図のようにヒモがねじ切れてしまい、おもりを持ち上げるどころか、おもりは落ちてしまいます。これが停電に相当します。
おもりが軽いときは、発電と需要の回転体は、同じ速度で同期をとって回りますが、おもりが重すぎるとヒモがねじれてしまって、おもりを持ち上げることができなくなってしまいます。これが同期安定性の安定度合いをイメージ化したもので、電力でも送電しすぎると同期が取れなくなってしまい、停電が発生してしまいます。
このようにならないよう事前にシミュレーションして、ヒモがねじきれない値、つまり同期安定性を保てる電力の送電可能量を求めておき、運用容量としています。
回転体とヒモのモデルは、電力中央研究所のYoutubeで詳しく説明されています。
今回の説明に引用させていただきましたが、非常にわかりやすい動画ですので、興味を持たれたかたは、是非ご覧ください。
同期安定性が制約要因になっている連系線
同期安定性が制約の決定要因となっている連系線は、以下の図で確認できます。日本にある10の連系線のうち、2つの連系線で同期安定性が決定要因となっています。
東北東京間連系線は、東北エリアの発電機から東京エリアに大規模な電力を送るための非常に重要な連系線です。同期安定性が制約要因になっているため、連系線近傍の発電機や送電線が停止すると、運用容量が変化するという特徴があります。
2022年3月16日に発生した福島県沖地震では、連系線近傍の発電機が地震により停止し、それにより運用容量が大きく減少するという事象も発生しました。
まとめ:同期安定性
発電機は同じ周波数で同期して運転する必要があり、互いの発電機が同期して安定的に運転継続できる度合いを「同期安定性」といいます。
送電線停止にような電力系統の状態変化がおきると、発電機は不安定な状態に近づき、限界を超えた発電機は自動停止してしまいます。そうならないよう、事前にシミュレーションで同期安定性を考慮した限界の潮流を計算し、同期安定性が制約要因となる運用容量を求めています。
同期安定性は、制約要因の中で最も難しいかもしれませんが、「馬と荷車」「回転体とヒモ」といったモデルから定性的なイメージを理解することもできます。
「熱容量等」「電圧安定性」「周波数維持」の制約要因については、下記の記事で紹介しています。
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