電気は常に需要と供給を一致させる必要があり、需要の変化に合わせて需要と供給をバランスさせるために必要な電力を「調整力」といいます。
一般送配電事業者の調整力による系統安定化業務のうち、周波数制御についてわかりやすく説明します。
調整力
「調整力」は、広域機関の業務規程では、以下のように定義されています。
「調整力」とは、周波数制御、需給バランス調整その他の系統安定化業務に必要となる発電設備(揚水発電設備を含む。)、電力貯蔵装置、ディマンドリスポンスその他の電力需給を制御するシステムその他これに準ずるもの(ただし、流通設備は除く。)の能力をいう。
出典:電力広域的運営推進機関 業務規程 定義
「調整力」とは、一般送配電事業者が、周波数制御、需給バランス調整などの系統安定化業務を果たすのに必要となる供給力の調整能力とも言えるでしょう。
一般送配電事業者は、周波数制御、需給バランス調整などの系統安定化業務を担務しており、系統安定化業務に用いる調整力は一般公募で調達しています(2022年時点)。
2023年度に調達する電源の種類は、電源Ⅰ,Ⅱ,Ⅰ´の3種類に大きく分類され、それぞれ異なる役割を果たします。
一般送配電事業者は、これらの調達した電源が具備する「調整力」を使って、系統安定化業務を行っています。
周波数とは
電気には、「交流」と「直流」があり、電力系統では交流が使われています。
交流の電気は、発電機の中にある巨大な磁石が回転することで作られ、1秒間に回転する数を「周波数」(単位:Hz)と言います。
日本では、東日本「50Hz」と西日本「60Hz」という2種類の異なる周波数の電気が使われています。
2種類の周波数が存在する理由は、明治時代に輸入した発電機が、東京は「ドイツ製:50Hz」、大阪は「アメリカ製:60Hz」と異なる周波数であったためで、それが徐々に周囲にも拡大していき、最終的には現在のようなエリアになってしまいました。
需要と供給のバランスが一致しているとき、周波数は、東日本では50Hz、西日本では60Hzとなり、電気の安定供給のためには、常に一定範囲に周波数を維持する必要があります。
周波数を一定に保つためには、需要の変化に対して常に発電を調整しつづける必要があります。
一般送配電事業者は、周波数を一定に保つために調整力により発電出力をコントロールして「周波数制御」を行っています。
周波数制御
一般送配電事業者は、電力系統の周波数を一定に保つため、事前に確保した調整力の発電出力を需要に合わせて制御しています。
これを「周波数制御」と言います。
時々刻々と変化する電力需要
周波数を一定に保つためには、発電と需要を一致させる必要があります.
しかし、電力需要は、工場の操業状態、商業施設の営業状況、家庭の照明、冷暖房設備の入り切りなど、様々な要因で常に変動しており、それを発電と一致させるのは容易ではありません。
以下の図は、ある1日の電力需要の例です。
需要はノコギリの歯のようにギザギザと小刻みに変動しておりまずが、需要の変動する周期をもとに3つの成分に分解することができます。
実際の電力需要「実負荷変動」は、「長周期成分」「短周期成分」「極短周期成分」に分解することができます。
周波数制御は、それぞれの需要の変動成分について異なった方法で対応します。
発電機の周波数制御機能
調整力として確保した発電機には、それぞれの変動成分に対応した周波数制御機能(GF,LFC,EDC)が備わっています。
実需給断面では、これらの機能を使い分けながら、各変動成分に対して周波数制御を行っています。
発電機のガバナフリー(GF)
数秒~数分程度の需要変動である「極短周期成分」に対しては、発電機のガバナーフリー(GF)運転により対応します。
ガバナ(調速機)とは、発電機の回転速度(周波数)を一定に保つように、発電機の動力である蒸気量を自動的に調整する装置のことです。
ガバナフリー運転とは、系統周波数の変化に応じて、ガバナ(調速機)の動作により発電機の出力を自由に調整できるようにした運転のことで、自動的に基準周波数に戻すよう出力調整を行います。
周波数変動への即応性が高いことから、極短周期成分の周波数制御に用いられています。
需給調整市場では、一次調整力に分類される機能です。
負荷周波数制御(LFC)
数分~十数分程度の需要変動である「短周期成分」に対しては、負荷周波数制御(LFC)により対応します。
負荷周波数制御(LFC)とは、各エリアの中央給電指令所で、現在の周波数から基準周波数(50Hzまたは60Hz)に戻すために必要な調整量を計算し、LFC調整の対象発電機に対して制御指令を発信することで、発電出力の制御を自動的に行う機能のことです。
周波数維持の根幹をなす制御であり、LFC調整の対象発電機には、確実かつ即応性のある応動が求められます。
需給調整市場では、二次調整力①に分類される機能です。
経済負荷配分(EDC)
十数分~数時間程度の需要変動である「長周期成分」に対しては、経済負荷配分(EDC)により対応します。
経済負荷配分(EDC)とは、各エリアの中央給電指令所で、十数分~数時間先の需要変動を予測し、エリア全体の発電費用が最小となる経済的な出力配分を計算する機能のことです。
この配分結果に基づいて発電機の出力を制御することで、中央給電指令所が制御する発電機全体のコストを最小にすることができます。
需給調整市場では、二次調整力②、三次調整力①に分類される機能です。
まとめ:周波数制御
一般送配電事業者は、電力系統の周波数を一定に保つため、事前に確保した調整力の発電出力を需要に合わせて制御しています。
これを「周波数制御」と言います。
実際の電力需要の変動成分は、「長周期成分」「短周期成分」「極短周期成分」に分解することができ、周波数制御は、それぞれの変動成分について異なった方法で対応します。
調整力として確保した発電機には、それぞれの変動成分に対応した周波数制御機能(GF,LFC,EDC)が備わっており、現在の運用(需給調整市場本格導入前)においては、これらの機能を使い分けながら、需要変動に対する周波数制御を行っています。
需給調整市場の商品要件では、これらの周波数制御機能(GF,LFC,EDC)を考慮して要件が定められています。
需給調整市場でのガバナフリー(GF)機能に該当する一次調整力においては、従来の火力発電機や揚水発電機に加え、新たに系統蓄電池の参入も期待されています。
下記の記事では、需給調整市場について紹介しています。
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