【容量市場】制度導入の背景と目的

広域機関は、2020年度より、将来の供給力(kW)を確保する仕組みとして「容量市場」を開設しました。

ここでは、容量市場の背景と目的について、わかりやすく解説します。

目次

制度導入の背景

小売全面自由化による新電力シェア拡大

2016年(平成28年)4月1日以降、電力の小売全面自由化により、新規参入した電力会社「新電力」から電気を購入することが可能になりました。

その当時は、JEPXスポット市場の価格が安く、市場から調達した電力を販売していた「新電力」のシェアが上昇し、旧一般電気事業者(東京電力等)のシェアは、減少していきました。

旧一般電気事業者が所有している電源では、販売電力量の減少に伴い、卸電力市場への販売比率の拡大採算性の悪化した経年火力の廃止といった対応がとられることとなりました。

出典:第58回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 資料3

再エネ導入拡大による市場価格低下

2012年7月1日、国が定める価格で一定期間の買取を行う固定買取制度(FIT)が開始されました。

買取価格が非常に高額な設定であったことから、太陽光発電の導入が急速に拡大していきました。

買い取られた太陽光電力の大半は、JEPXスポット市場に入札されています。

太陽光発電は、日射により発電され、燃料費用は0円ですので、JEPXスポット市場に入札する際には、0.01円/kWhの最低価格で売り入札されます。

このため、日射の良い昼間帯では、太陽光発電の影響により、JEPXスポット市場価格が顕著に低下することとなりました。

出典:JEPXホームページ 2023年2月5日(日)システムプライス

電源投資予見性の低下

発電事業者による電源投資は、小売全面自由化により、市場価格を指標として投資回収される仕組みに移行していくと想定されます。

再エネ(FIT)導入拡大により、市場価格が低下すると、発電事業者の売電収入が減少し、適切なタイミングでの新たな電源投資への意欲が減退してしまう可能性があります。

電源投資の予見性は、総括原価方式の下、規制料金を通じて投資回収がなされてきた頃と比べて、低下していくことが懸念されます。

供給力不足・調整力不足の懸念

小売全面自由化による旧一般電気事業者のシェア低下、再エネ(FIT)導入拡大による市場価格の低下により、旧一般電気事業者が所有しているコスト競争力の低い経年火力の廃止が進むと予想されています。

しかし、電源の投資予見性が低下した状況では、経年火力の廃止の後、供給力不足による市場価格上昇が顕在化するまで、電源投資が始まらない可能性があります。

そのような状況になってから投資が始まると、電源開発には一定のリードタイムを要することから、中⾧期にわたり供給力不足となり、市場価格の高止まりを招く恐れがあります。

出典:電力広域的運営推進機関 容量市場 説明会資料

再生可能エネルギーの導入拡大が進められる中、中⾧期的な供給力不足が顕在化した場合には、需給調整手段として、必要な調整電源を確保できない問題も生じると考えられます。

出典:電力広域的運営推進機関 容量市場 説明会資料

このような状況を鑑み、電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめ(2017年2月)において、一定の投資回収の予見性を確保する施策である容量メカニズムの導入が示されました。

それを受け、2017年3月より、容量市場の在り方等に関する勉強会にて容量市場の制度設計が進められ、2020年度から将来の供給力を確実に確保するため「容量市場」が開設されることとなりました。

目的

容量市場の目的は、

  • 電源投資が適切なタイミングで行われ、予め必要な供給力を確実に確保すること
  • 卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットをもたらすこと

供給力の確実な確保

発電や小売、一般送配電の各事業者の計画をまとめた供給計画では、多くのエリアの供給予備率が減少傾向にあることが示されており、将来の供給力を確実に確保する仕組みが必要とされています。

出典:電力広域的運営推進機関 容量市場 説明会資料

広域機関は、容量市場で、実需給期間の4年前から全国で必要な供給力(kW)を一括して確保します。

容量市場は、買い手は広域機関、売り手は発電事業者等となる、シングルプライスオークションです。

広域機関が設定した全国で必要な供給力等や発電事業者の応札価格に基づき、約定価格が決定されます。

このように、容量市場は、将来の発電できる能力(kW)を予めオークション形式で確保することで、供給力を確実に確保する仕組みです。

市場価格の安定化

JEPXスポット市場価格は、供給力不足による価格高騰を何度か経験しています。

シングルプライスオークションの性質上、供給力が売り切れとなった場合は、需要側の入札価格で約定価格が決まってしまうため、これまでも200円/kWhといった非常に高額な約定価格となった事例もあります。

容量市場により、供給力不足を解消することで、供給力の売り切れによる価格高騰を防ぎ、市場価格の安定化を図ろうと考えています。

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まとめ

広域機関は、2020年度から「容量市場」を開設し、毎年、4年後に必要となる供給力を確保しています。

再エネ(FIT)導入拡大による市場価格の低下等により、コスト競争力の低い経年火力の廃止が進む一方で、電源の投資予見性低下により、新規電源への投資が進まない懸念が生じていました。

そこで、新規電源の投資予見性を高め、適切なタイミングで電源の開発が進むよう、4年後の供給力を予め確保しておく容量市場が開設しました。

供給力を確実に確保することで、卸電力市場での供給力売り切れを防ぎ、電力価格を安定化することも期待されています。

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