経済産業省の「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」において、中長期的な電力システムのあるべきひとつの姿が検討されています。
ここでは、「スポット市場・需給調整市場」の代わりとして議論されている「同時市場」についてわかりやすく解説していきます。
スポット市場・需給調整市場の課題
2024 年以降は、小売電気事業者は相対契約やスポット市場・時間前市場にて電力(kWh)の調達を行い、一般送配電事業者は需給調整市場での調整力(ΔkW)の調達を行います。
調整力(ΔkW)は、週間断面で、需給調整市場にて調達します。
電力(kWh)は、前日断面ではスポット市場にて、当日断面では時間前市場にて調達します。
このように、電力や調整力は、スポット市場・時間前市場・需給調整市場といった、時間軸の異なる複数の市場から調達せざるを得ない状況です。
「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」では、このような市場の状況から、以下のような課題が生じると想定しました。
① BGが需給調整市場(マルチプライスオークション)に入札せず、調整力の調達が確実に行えない(足元でも三次調整力①や②で募集量未達が発生) ② ブロック入札にて、売り残りによる逸失利益の存在やスポット市場の売り切れ等の問題が顕在化 ③ kWh 市場とΔ kW 市場が異なる市場として運営されていることや市場スケジューリング、前日以降の電源起動停止の計画更新頻度が少ないことにより、過剰な台数の起動等、電源の運転が非効率になる懸念 ※例えば、現行の仕組みにおいて、需給調整市場で一定の台数を起動させた上で、その後開場されるスポット市場において、買い約定が想定よりも多かった場合などは過剰に起動台数が増える可能性 ④ 卸電力市場と需給調整市場のオークション方式および価格規律の関連が薄く、調整力も含めた電源のメリットオーダーが成立しにくい構造となっている懸念 ⑤ BGの立場からすると、調整力として確保された電源がスポット市場や時間前市場に売り入札されず、市場の売り切れに伴う価格高騰や、再エネが市場統合されていく中における再エネ予測誤差への対応の困難さが課題 ⑥ BGの立場からすると、それぞれの市場で異なる応札の締め切り時間や入札方法が課されており、プロセスが煩雑
これらの課題を解決するため、新たな電力システムのあるべきひとつの姿が提案され、それがkWhとΔkWを同時に約定させる「同時市場」という仕組みです。
需給調整市場には、以前から効率的に機能するのか疑問を感じておりましたが、このような実務に則した課題が提起されたことは、非常に良いことだと思います。
同時市場
全体イメージ
同時市場は、経済産業省の「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」にて検討が進められています(2023年1月時点)。
現時点で検討されている同時市場のイメージは以下のとおりです。
同時市場では、確実な電源起動を担保する観点から、【需要予測(TSO)+ΔkW-Ⅱ(需給調整市場の一次①~三次①)】を前日にまとめて調達することが想定されています。
用語定義 【kWh】 :小売り約定分 【ΔkW-Ⅰ】 :前日断面においてTSOが予測するインバランス想定分(前日時点でのTSO予測需要との小売調達需要の差)。ΔkW(TSOの調整電源)とkWh(小売調達需要の差分の埋め合わせ)の両方の性質を持つと考えられる。 【ΔkW-Ⅱ】 :GC後の最終的な需給変動対応(一般的にΔkWといわれるもの。需給調整市場の一次調整力~三次調整力①) 【ΔkW-Ⅲ】 : GC前の再エネ(FIT特例①及び③)の変動対応(三次調整力②)
次に、同時市場を導入した場合の運用や課題を、時間軸に区切って、見ていきましょう。
数年前~2か月前(必要な容量や燃料の確保)
容量市場により、必要とされるkWは、4年前のオークションで確保されます。
それに合わせて、kWh(燃料)も確保されます。
同時市場の仕組みにおいても、この時間断面では特に変わりはありません。
1週間前(週間断面での電源起動の仕組み)
週間断面では、必要な電源が確実に起動できる仕組みが求められます。
多くの火力電源にとっては、前日スポット市場の後でも、停止から起動に必要な時間を確保できます。
しかし、一部の電源(石炭火力等)は、1日以上の起動時間を必要とします。
また、揚水発電を安定的、効率的に運用するには、週間単位の計画策定が必須です。
このような 1 日以上の起動時間であったり、週間単位での計画策定が必要な電源を確実かつ効率的に起動・運用するための具体的な仕組みを検討する必要があります。
あわせて、電源の起動や揚水運用の判断主体(発電事業者、小売電気事業者、送配電事業者)を明確にする必要があります。
前日X時(同時市場):スポット市場(kWh)と需給調整市場(ΔkW)の統合
スポット市場(kWh)と需給調整市場(ΔkW)が異なる市場として運営されているため、効率的な電源運用ができないという懸念が課題として勉強会で提起されました。
そこで、kWhとΔkWを同時に調達する「同時市場」の仕組みが検討されています。
同時市場では、発電事業者は、電源の諸元(Three-partOffer:①ユニット起動日、②最低出力コスト、③限界費用カーブ)を登録し、kWhとΔkWを同時に約定させ、全体のメリットオーダーを実現します。
同時市場で確保される電力は、次の二つの合計です。
・送配電事業者(TSO)が予測する需要【相対電源+小売入札量+ΔkW-Ⅰ】
・需給調整市場の一次~三次①の調整力【ΔkW-Ⅱ】
小売入札分は、同時市場で全体のメリットオーダーを考慮して確保された電力から、小売りに配分されることになります。
前日X時~GC(時間前市場)
一般送配電事業者が確保したΔkW-Ⅰ,Ⅱの電源のうち、需給運用の過程でkWhの供出が確定した電源等を時間前市場に投入します。
小売電気事業者は、同時市場で調達した電源に対して、追加で必要となった電力量を時間前市場から調達します。
このようにΔkW-Ⅰ,Ⅱは、一般送配電事業者から小売に配分されます。
小売に配分されずに残った電源ΔkWについては、一般送配電事業者が実需給断面での需給調整に用います。
GC後
一般送配電事業者は、小売に配分されずに残ったΔkWを確保しています。
GC後は、このΔkWにより、インバランスおよび需要変動に対応します。
今後の方向性
経済産業省の「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会」において、2021 年 12 月 28 日から 2022 年 6 月 20 日までの約半年にわたって議論が行われ、燃料確保や安定供給のための電源起動、メリットオーダー等について取りまとめられました。
取りまとめでは、スポット市場と需給調整市場が異なる時間軸で存在する現状の市場では、安定供給のための電源起動や全体のメリットオーダーが実現できない懸念が課題として取り上げられ、中長期的な電力システムのあるべきひとつの姿として、kWhとΔkWを同時に約定させる「同時市場」の仕組みが提起されました。
勉強会の取りまとめを踏まえ、以下の2点を目的とした「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」が立ち上げられ、検討が続けられています(2023年1月時点)。
あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会 【目的】 ・中長期(実需給の数年~2 か月程度前)の断面に関して、確実な燃料確保という観点から、あるべき姿と具体的な対応策について検討を行う。 ・短期(実需給の1週間前以降)の断面に関して、安定供給のための電源起動とメリットオーダーの追求の観点から、あるべき姿と具体的な対応策について検討を行う。
現在の電力制度を根本から見直すような内容ですので、実現までには、かなりの時間を要すると思いますが、事業者の方は、議論の行方を注視していく必要がありそうです。
良い制度になるよう期待しています。
需給調整市場については、こちらの記事にまとめています。
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