「N-1電制」は、送変電設備の単一設備故障時に、リレーシステムで瞬時に電源制限を行うことで運用容量を拡大する取り組みです。
2022年7月5日以降は、N-1電制の本格適用を前提とした、接続検討申し込みの受付が開始されます。
ここでは、N-1電制の本格適用について、わかりやすく解説します。
N-1電制の概要
系統の信頼性の観点から、2回線送電線に流れる平常時の潮流は、万が一のN-1故障(単一設備故障:送電線1回線故障など)発生時でも安定的に送電が継続できるよう、送電線1回線分の設備容量を上限に運用しています。
この上限を「運用容量」と言います。
「N-1電制」はN-1故障時に瞬時に発電出力の抑制(または遮断)する装置を、電源や送電線等に設置することにより、平常時の運用容量を拡大する取り組みです。
N-1電制は、装置の設置のみで適用でき、送電線の張替などを行う増強工事より効率的に、運用容量を拡大することができます。
N-1電制の適用例
「N-1電制」なしの場合に、N-1故障(送電線の1回線事故)を想定します。
この場合、平常時に流せる潮流は、N-1故障時に運用容量を超過しないよう、100MWが上限となるので、「電源A,B」のみ運転できます。
「新規電源C」を接続するには、送電線の増強工事(100MW→150MW)が必要となり、多額の費用が発生します。
「N-1電制」ありの場合に、N-1故障(送電線の1回線事故)を想定します。
N-1故障時は、電制装置(Ry:保護継電器)により、瞬時に電制対象の「電源A」が停止します。
そのため、平常時は、電源A,B,Cの合計150MWまで運転することができ、送電線の増強工事を行わずに「電源C」の系統接続が可能となります。
先行適用と本格適用の違い
先行適用
- 2018年10月から開始しているN-1電制の「先行適用」とは、N-1(単一設備)事故時に空き容量がない系統において、事故時には自らが電制されることを条件に、新規電源を系統連系可能とする取り組みです。
- 「緊急時用に確保」される容量に新規電源は割り当てられます。
本格適用
- 本格適用では、新規電源・既設電源に関わらず、一般送配電事業者が合理的と判断した電源に対し、N-1電制装置を設置し、N-1電制の電源容量を「緊急時用に確保」として割り当てます。
- これにより、N-1電制の電源容量分だけ、運用容量が拡大できます。
本格適用では、N-1電制対象となる電源を、新規電源だけではなく、既設の電源も対象としている点が、先行適用と大きく異なります。
N-1電制の対象電源選定
N-1電制の本格適用では、電制対象は、一般送配電事業者により選定されます。
選定の優先順位は以下のとおりです。
(1)潮流の抑制効果が大きい(電制台数を削減できる、抑制量を適正にできる 等)
(2)電制後の再起動時間が短い
(3)機会損失費用が少ない(発電単価が高い、起動費が安い 等)
(4)電制装置の設置費用が安い(通信回線費用が安い 等)
(1)~(4)の中で、もっとも優先順位の高い「潮流の抑制効果」については、「A地点」「B大きさ」「C系統混雑時の混雑見通し」の観点を考慮して選定します。
例えば、「A地点」については、より電制効果の高い系統接続点にある電源を選定します。
「B大きさ」については、単純に出力が大きい方が、電制効果が高くなります。
「C系統混雑時の混雑見通し」については、系統混雑時に混雑処理により出力抑制されてしまうと、N-1電制時の抑制量も減少してしまうので、混雑処理をされにくい電源を選定するという意味です。
「一般送配電事業者」は、このようなルールに従って、N-1電制の対象電源を選定します。
先行適用では、新規電源がN-1電制の対象電源でしたので、この点が本格適用との大きな違いです。
N-1電制の適用系統
N-1電制の適用にあたり、特別高圧以上の電力系統を基幹系統(各エリア上位2電圧)とローカル系統に大別した場合、基幹系統については、以下のような懸念が存在します。
基幹系統における懸念 ■ 必要となる電制量が多く、電制時に大幅な供給力低下、周波数低下を招く ■ 電制の対象範囲が広範囲となり、対象数が膨大化、システムが複雑化 ■ 電制失敗時の影響が大
さらに、基幹系統を放射状系統とループ系統に大別すると、ループ系統では、複雑で大規模なシステムが必要となり、高額なシステム費用が発生することが想定されます。
それらを踏まえて、N-1電制の適用系統の考え方は、以下のとおり整理されました。
基幹系統は放射状系統が対象です。
ローカル系統も放射状系統が大半ですので、N-1電制は、基本的に放射状系統での適用が想定されています。
N-1故障に対する電制量(目安)は「常時の周波数変動に収める電制量」と「各エリアの予備率を考慮した電制量」の小さい方を目安とすると整理されています。
※3 常時の周波数変動(低下側)-0.2Hz(北海道、沖縄は-0.3Hz)
※4 軽負荷期における各エリアの需要(2017 年度供給計画より)を基に算出(7%)
まとめ
2022年7月5日より、系統のさらなる有効利用をはかることを目的として、既設電源を含め、全ての電源をN-1電制の候補とし、運用容量を拡大する仕組み(N-1電制本格適用)が開始されました。
このN-1電制の基本的な考え方や具体的手法は、電力広域的運営推進機関のHPで公表されています。
N-1電制とは、N-1故障時に、瞬時に発電出力の抑制(または遮断)する装置を、電源や送電線等に設置することにより、平常時の運用容量を拡大する取り組みです。
N-1電制は、装置の設置のみで適用でき、送電線の張替などを行う増強工事より効率的に運用容量の拡大が可能となります。
2018年10月より開始された先行適用では、N-1電制の対象電源は、新規に接続する電源に限定されていました。
2022年7月5日より開始される本格適用では、対象電源を既設電源まで含めたすべての電源に拡大し、「一般送配電事業者」がルールに従い、電制対象電源を選定します。
「N-1電制」や「ノンファーム型接続」は、既存系統の有効活用を目指す「日本版コネクト&マネージ」の取り組みです。
ノンファーム型接続については、以下の記事で解説しています。
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