kWh供給力確保義務の「とりまとめ案」が提示 ── 制度設計WG第10回【2026年3月】

2026年3月17日、経済産業省の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(WG)」の第10回会合が開催されました。今回は、これまで約9ヶ月にわたって議論されてきた「小売電気事業者の量的な供給力(kWh)の確保」について、各論点を整理した「とりまとめ案」が提示されました。

前回の記事では、制度の背景から第9回WG(2026年2月4日)で議論された5つの論点までを解説しました。ここでは、第10回WGで示されたとりまとめ案の内容と、各論点に対する結論の方向性についてわかりやすく解説します。

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この記事のポイントです。
・第10回WG(2026年3月17日)でkWh供給力確保義務の「とりまとめ案」が提示された
・履行措置はB案(指導・勧告)を基本として運用を開始する方向
・想定需要の算出は直近の販売実績をベースとする
・再エネ電源を含め電源種別は問わないことが改めて明確化された

目次

第10回WGの位置づけ ── パブコメを経た「とりまとめ案」

第10回WGは、2025年6月の第1回から数えて10回目の会合です。第8回(2025年12月10日)で中間とりまとめ案が示され、その後パブリックコメント(事業者・利害関係者からの意見募集)が実施されました(2025年12月25日〜2026年1月28日)。第9回(2026年2月4日)では履行措置を中心とした5つの論点が議論され、第10回ではそれらの結果を踏まえた「とりまとめ案」が資料3として提示されています。

パブリックコメントの結果は参考資料2として公表されており、事業者や業界団体からさまざまな意見が寄せられています。今回の資料3はこうした意見も反映した上で、各論点の方向性を整理したものです。

出典:資源エネルギー庁 小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方について(第10回制度設計WG 資料3)

各論点のとりまとめ ── 5つの決定事項と継続検討事項

第9回WGまでに議論された主要論点について、第10回では以下の方向性がとりまとめ案として示されました。前回記事で紹介した論点に加え、電力先物の取扱いという新たな論点も整理されています。

履行措置 ── 運用当初はB案(指導・勧告)を基本に

前回記事で紹介したA案(容量拠出金の追加徴収)とB案(電気事業法に基づく指導・勧告)の比較検討について、とりまとめ案では方向性が示されました。

運用開始時点では、小売電気事業者が中長期取引市場や相対取引をどの程度活用できるかが不確実であるため、運用当初からA案で未充足事業者に費用負担を求めることは過度な措置になるリスクがあるとされています。また、A案に必要なシステム構築が間に合わない可能性も指摘されています。

このため、運用開始当初はB案を履行担保措置の基本として、さらに詳細の検討を進めることとされました。ただし、B案については行政側の裁量が大きく、透明性の確保や公平性の担保が課題として指摘されており、これらに十分留意しつつ制度を具体化していく方針です。A案については運用状況を見極めた上で引き続き検討するとされています。

出典:資源エネルギー庁 小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方について(第10回制度設計WG 資料3)

想定需要の算定 ── 直近の販売実績をベースに

確保を求める量の算出の諸元となる「想定需要」をどのように定めるかについては、2つのアプローチが検討されてきました。

  • ①資源エネルギー庁やOCCTOが示した考え方に基づき、各事業者が実需給年度の需要の想定値を算定する方法
  • ②直近の販売実績を基にする方法

これまでの議論では、恣意性を排除する観点や行政の確認コストを勘案すると、②の直近の販売実績を基にする方法が適切との意見が多数でした。一方で、販売実績と実需給年度の販売量との間に大きなぶれが生じる可能性も指摘されています。

とりまとめ案では、量的割合を算出する際の諸元となる需要は販売実績を基にすることを基本とし、今後の検討を進めるとされました。あわせて、恣意性の排除を維持しつつ、需要減少時の過剰調達や需要増加時の調達未達に対応した手当てについても引き続き検討するとされています。

共同調達 ── バランシンググループ単位での評価を容認

小売電気事業者の中には、需要バランシンググループ(BG)に入り、電源調達をBG親に委託しているケースがあります。こうした実態を踏まえ、BGのような形態を含めて共同で評価することも認めることとされました。

具体的には、共同で調達を行う複数の小売電気事業者の合算した需要に対して、求められるkWhを確保できていれば、共同調達を行っている小売電気事業者は一体として量的な供給力を充足していると評価します。個社では中長期kWhの直接調達が困難な小規模事業者にとって、義務履行のハードルが下がることが期待されます。

今後は、共同での履行状況の確認手法や二重計上の排除といった技術的な詳細について、BGの運用実態を確認した上で検討を深めていくとされています。

出典:資源エネルギー庁 小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方について(第10回制度設計WG 資料3)

再エネ電源の評価 ── 電源種別は問わないことを明確化

確保を求める供給力は、その負荷形式を問わないとして議論を進めてきましたが、「再エネ電源で確保したkWhは対象に含まれるのか」という事業者からの問い合わせが多数寄せられていたため、改めて明確化が行われました。

再エネ電源を供給力の主力として調達している小売電気事業者が一定数存在している実態や、今後も再エネを拡大していく政策の方向性、供給計画上でもkWhに関しては各電源とも調整係数等を乗じることなく調達見込み量の算定・報告を求めていることとの整合性から、確保を求めるkWhとして電源の種別は再エネ電源を含め問わないこととされました。

電力先物の取扱い ── 現物での確保が基本

第10回WGでは、電力先物を量的な供給力確保の手法として認めるかという論点も新たに整理されました。

電力先物は現物の調達を伴わない金融商品であり、それ自体を供給力として評価することが難しいという課題があります。一方で、小売電気事業者が電力先物と現物取引を組み合わせた調達を行うことで、需要家に供給する電力の価格を安定させる効果もあるとの指摘もあります。

このため、量的な供給力確保は現物での確保を基本とし、電力先物をどのように取り扱うかについては引き続き検討するとされました。

確保量と小規模事業者への配慮

確保を求める量については、前回記事で紹介した水準がとりまとめ案でも維持されています。

3年度前(N-3年度)1年度前(N-1年度)
比較的規模の小さい事業者想定需要の2.5割想定需要の5割
その他の事業者想定需要の5割想定需要の7割

「比較的規模の小さい事業者」は販売電力量が5億kWhを下回る事業者を指し、運用開始から一定の期間、確保を求める量を軽減する措置が講じられます。2023年度時点で販売電力量が5億kWhを下回る事業者の合計は、日本全体の総需要の約3%程度です。

また、すべての小売電気事業者が内外無差別卸を含めた中長期取引を通じて安定的にkWhを調達できる環境が整っていることが大前提であるとされています。kWh確保が困難な場合には、その要因を分析した上で、確保を求めるkWh量の検証や経過措置・激変緩和措置の要否の検討を行う方針です。

今後のスケジュール ── 2026年秋から段階的に始動

今後のスケジュールについてもとりまとめ案で整理されています。現時点では2028年度に中長期取引市場での取引開始を想定しており、その状況を踏まえた上で、2029年度中に提出される2030年度供給計画から本措置の運用を開始(量的な供給力確保の状況について確認を開始)することを想定しています。

当面の具体的なステップは以下の通りです。

  • 2026年度秋頃:供給計画の様式改正案を確定し、2028年度供給計画(2027年度に提出)から新様式を適用
  • 2028年:中長期取引市場での取引開始
  • 2029年:2030年度供給計画の策定時より、量的な供給力確保の状況について確認開始。2032年度供給分について5割(2.5割)、2030年度供給分について7割(5割)の達成状況を確認

並行して、小売電気事業者の量的な供給力の確保実態やビジネスモデルの実態、先物取引や共同調達の実態など、実務上の論点を具体化するためにヒアリングやアンケートを通じた確認・検証が進められます。検討の進捗状況は適切な審議会の場で報告・議論されるとされています。

出典:資源エネルギー庁 小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方について(第10回制度設計WG 資料3)

まとめ

第10回WGでは、約9ヶ月にわたる議論の集大成として「とりまとめ案」が示されました。履行措置はB案(指導・勧告)を基本に運用を開始する方向となり、想定需要は販売実績ベース、電源種別は再エネを含め問わないことが明確化されています。共同調達の容認や電力先物の扱いなど、実務に近い論点も整理されました。

制度設計の大枠は固まりつつありますが、履行措置の透明性確保や経過措置の具体化など、今後の詳細設計に委ねられている部分も少なくありません。2026年秋の供給計画様式改正、2028年の中長期取引市場開始、2029年の確認開始と、制度は段階的に動き始めます。引き続き議論の推移を注視していく必要があると考えられます。

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とりまとめ案が出たことで制度の大枠が見えてきましたが、まだ詳細設計はこれからです。特に履行措置の具体的な運用方法や、中長期取引市場が本当に機能するかどうかは、今後の検討に委ねられています。引き続きウォッチしていきます。

※本記事の情報は作成時点のものです。制度は今後変更される可能性があります。最新の情報は電力広域的運営推進機関(OCCTO)または経済産業省の公表資料をご確認ください。

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